研究課題/領域番号 |
16J10001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
崔 旭鎮 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | graphene / 複素誘電率 / マイクロ波伝導度 / 電子物性 |
研究実績の概要 |
Grapheneは独特な2次元電子物性を示し、近年興味を持たれているが、その根本的な原理は解明されていない。従来は2次元物質に対して、直接電流を流す直流法を用いて物性の研究が行われてきたが、マイクロ波共振法を用いた物性解析法はより本質的な材料の物性への手がかりが得られると考えられる。 しかし、現在のマイクロ波共振解析法は移動度とトラップ密度測定のみが可能で、その他の情報は得られない。更なる情報を解析するために、マイクロ波伝導度の周波数依存性を調べることで、複素誘電率を見積もる方法を確立した。従来の測定法では、電荷注入により発生する伝導率の変化へ注目し、解析していたが、新しい測定法では電荷注入により発生する誘電率の変化も同時に測定する。Grapheneに対し、複素誘電率を測定した結果、Grapheneの誘電率変化は自由キャリアのみを考慮した場合に比べ100倍以上大きいことが分かった。このことは、Graphene内の電荷キャリアがプラズマとして振舞っていることを示唆している。プラズマモデルより解析を行った結果、電荷注入により発生するGrapheneのマイクロ波伝導度変化は通常の物質より抑制されることが分かった。従来、マイクロ波より測定したGrapheneの電荷キャリア移動度は、直流測定より得られたものに比べ、小さい値を示していた。今回の解析より、その原因が電荷キャリアのプラズマ化にあることが明らかになった。更に、プラズマモデルより解析を行うことで、Graphene内の電荷キャリアの緩和時間を見積もることが可能となる。これより、Graphene内での電気伝導機構に関する知見が得られると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、計画していた低温におけるマイクロ波伝導度測定は、進捗が少し遅れている。温度低下による結露の問題を回避するために、窒素ガスフローを行い、共振器内部を乾燥状態にして、液体窒素内で熱交換させた冷却窒素ガスで冷却を試みたが、原因不明のノイズが発生するため、測定が困難な状況にある。恐らく、測定する際にデバイスから共振器内部に落ちる銀ペーストの粉末がノイズの原因では無いかと考えられている。この問題も回避し、より低温まで温度を下げて測定可能な低温共振器を設計した。共振器内に石英二重管を設置して、デバイスを外部から隔離し、石英二重管に冷却ガスをフローすることで冷却する共振器を設計し、現在作製中である。 当初計画には無かったが、マイクロ波伝導度変化の周波数依存性を調べることで、電荷注入時に発生する誘電率変化を見積もる方法を確立した。この測定法を利用するために、解析システムに改良を加えている。伝導率変化と誘電率変化を同時に測定ことで、電荷キャリア移動度のみを測定するのではなく、電荷キャリアのトラップ状態、トラップ深さなどが分かり、またGrapheneみたいなキャリア有効質量の小さい材料で現れるプラズマ化の影響も見積もることが出来る。この研究は現在論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
設計した低温用空洞共振器の作製が完了したら、低温測定を試みる。もし、新しい共振器でも100 K程度の低温まで到達出来ない、もしくはノイズの問題が解決されない場合は、新しい方策として、共振器をマイクロ波回路より独立させ真空にした後、冷凍機での冷却を試みる。 Grapheneに対する複素誘電率測定より、Graphene内のキャリアの緩和時間が見積もれることが分かったので、Grapheneの層間相互作用による物性変化を測定し、解析することにした。Grapheneが2層、3層と多層化していくことによって現れる有効質量および緩和時間の変化を複素誘電率測定で解析していく。更に、Grapheneの層間の配向角に依存する物性変化も測定していく予定である。
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