研究課題/領域番号 |
16J10010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 駿介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 有機薄膜 / 励起子 / アルキル鎖修飾 / グラフェン / アルカリ原子インターカレーション / グラフェンプラズモン / 二次元電子分光 |
研究実績の概要 |
今年度は以下のような進展があった。 (1)有機薄膜太陽電池のドナー材料として注目を集めているジナフトチエノチオフェン(DNTT)薄膜の励起子ダイナミクスを時間分解蛍光分光法から調べた。DNTT分子の両端にアルキル鎖を修飾したC10-DNTTを用いた薄膜も作製し、その励起子ダイナミクスも調べた。両薄膜の結果を比べることでアルキル鎖が分子集合体中の励起子に与える影響を初めて明らかにできた。具体的には、励起子の波動関数の広がりを意味する励起子コヒーレンスサイズが35 KではDNTT薄膜よりC10-DNTT薄膜の方が2-3倍大きいことが分かった。また、この増大の要因についても検討し、アルキル鎖がもたらす薄膜の長距離秩序性であると結論づけた。 (2)有機薄膜太陽電池の電極として注目を集めているグラフェンの光学応答を定常状態と時間分解反射分光から調べた。Ir(111)上に作製したグラフェンにCs原子を暴露すると、Cs原子がIr(111)とグラフェンの間にインターカレートすることが知られている。Cs原子を暴露しながら反射率測定を行うと、Cs原子のインターカレーションに伴って可視光領域に約20%という巨大吸収帯が現れることが分かった。さらに、Li原子を暴露した場合も可視光領域に吸収帯が観測された。この吸収はグラフェンプラズモンの励起による吸収であると考えている。 また、この巨大吸収帯の時間分解反射率測定を行うことで、グラフェンプラズモンの非線形応答とその緩和過程を初めて実時間観測できた。 さらに、この吸収帯を超短パルス光で励起すると試料から光電流が観測できた。これは多光子過程による光電子放出が原因であると考えている。そこで、この光電子放出による電流を利用して構築した二次元光電流分光法を適用することで、この巨大吸収帯の二次元スペクトルの観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機薄膜太陽電池のドナー層として注目を集めているDNTT薄膜の励起子の挙動とアルキル鎖修飾により励起子の空間的広がりが向上することを明らかにできた。これらは有機薄膜太陽電池の光電変換効率向上に貢献が期待できる。 さらに、二次元光電流分光の光学系の構築ができた。アルカリ原子が層間挿入されたIr(111)上のグラフェンで観測された巨大吸収帯に二次元光電流分光法を適応することで巨大吸収帯の二次元スペクトルの測定に成功した。このような二次元スペクトルが得られたことは、初年度としては順調に遂行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンの上に有機分子を蒸着させて反射光強度測定を行う。巨大吸収帯によって分子の光学応答を増大させ、高感度に有機分子とグラフェンという異種分子界面のダイナミクスを測定する。さらに、構築した二次元光電流分光法も適用し有機分子/グラフェン界面のダイナミクスを解明する。
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