研究課題/領域番号 |
16J10036
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
見原 翔子 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | レドックス制御 / シアノバクテリア / チオレドキシン / 窒素固定 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
レドックス制御は、タンパク質の酸化還元(レドックス)状態を変化させることでタンパク質の活性を調節する分子機構である。光合成生物では、光合成電子伝達系からチオレドキシン(Trx)還元酵素、Trxを介した還元力伝達経路とNADPH、NADPH-Trx reductase C (NTRC)を介した還元力伝達経路がレドックス制御の中枢であると考えられている。このシステムによって、光照射による環境変化に応答した代謝制御が行なわれる。植物葉緑体のレドックス制御についてはすでに様々な研究が行なわれているが、その起源と考えられているシアノバクテリアのレドックス制御系については研究が立ち遅れている。そこで、本研究では、窒素固定型(ヘテロシスト形成型)シアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120 (Anabaena 7120)のレドックスネットワークの解明を目指して研究を行なっている。本年度は以下の研究を行なった。 ① レドックス制御におけるNTRCとTrx各サブタイプの標的タンパク質の選択性と分子機構の解明 昨年度の研究でTrxが活性化因子OpcAの酸化還元状態を変化させることでGlucose 6-phosphate dehydrogenase (G6PDH)の活性を調節していることを明らかにした。本年度はOpcAとG6PDHの相互作用について調べ、OpcAの酸化還元状態はG6PDHとOpcAは複合体の形成に影響を与えないことを明らかにした。さらに、Trxへの還元力伝達経路を調べ、2種類のTrx還元酵素が各Trxに対して選択性を持つことを明らかにした。 ② レドックスネットワークのin vivoでの作用機序と生理的重要性の解明 Anabaena 7120の細胞内の各Trxの酸化還元状態を調べ、強光かつ窒素欠乏条件下で特異的に機能するTrxが存在することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① レドックス制御におけるNTRCとTrx各サブタイプの標的タンパク質の選択性と分子機構の解明 Anabaena 7120が持つ2種類のTrx還元酵素(NTR、FTR)および各Trxの組換え体タンパク質を作製した。NTRは遺伝子データベース上ではNTRと表記されているが、実際にNTRとしての機能を持っているか明らかでなかった。そこで、生化学実験を行ないNTRがNADPHから還元力を受け取り、一部のTrxを還元することを明らかにした。さらに、FTRから各Trxへ還元力が伝達するかを調べ、2種類のTrx還元酵素がそれぞれの種類のTrxに対して選択性を持つことを明らかにすることができた。また、各Trxへの還元力伝達効率に違いがあること見いだした。現在、還元力伝達効率についてさらに詳細な実験を行なっている。 ② レドックスネットワークのin vivoでの作用機序と生理的重要性の解明 抗体染色法により各Trxの細胞内のレドックス状態を調べ、ある種のTrxは強光かつ窒素欠乏条件で特異的な役割を果たしていることを明らかにすることができた。現在、Trxアフィニティークロマトグラフィーを行ない、このTrxの標的を同定中である。また、細胞内のTrxのタンパク質蓄積量の研究は現在実行中である。昨年度作製したTrx破壊株について酸化ストレスに関わる生理パラメータの測定を予定していたが、本年度は実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
① レドックス制御におけるNTRCとTrx各サブタイプの標的タンパク質の選択性と分子機構の解明 強光、窒素欠乏条件で特異的な役割を果たすと考えられるTrxの標的をTrxアフィニティークロマトグラフィーにより同定する。同定された標的について組換え体を作製し、生化学実験によりTrxからの還元力伝達を調べる。さらに他の種類のTrxやNTRCによって還元されるかを調べ、還元力伝達効率を比較する。また、得られた標的タンパク質の酵素活性など生理機能がレドックス制御によりどのように調節されるのか、制御を受けるシステイン残基はどれかなど、制御の分子基盤を解明する。 ② レドックスネットワークのin vivoでの作用機序と生理的重要性の解明 引き続き、各Trx、Trx還元酵素の抗体を作製し、抗体染色法により細胞内のタンパク質蓄積量を定量、比較する。光強度や窒素源の違いにより各Trx、Trx還元酵素のタンパク質の蓄積量が変動するかを調べる。さらに、光合成を行なう栄養細胞と窒素固定を行なうヘテロシストでの発現量を比較する。各Trx破壊株、Trx還元酵素破壊株を強光条件下など様々な条件下で培養し、生育速度を比較する。破壊株で生育阻害が見られた場合は抗酸化システムで作用する酵素活性など酸化ストレスに関わる生理パラメータを測定する。また、細胞内のTrx標的タンパク質のレドックス状態を可視化することで、①で明らかになったレドックスネットワークが実際に細胞内でも構築されているかを調べる。
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