今年度は、空間反転対称性と時間反転対称性が同時に破れた磁性体中におけるマグノン励起が引き起こす相対論的効果である非相反なマイクロ波応答について、通常の強磁性マグノン励起より高周波側に存在する反強磁性マグノン励起が引き起こす非相反マイクロ波応答をマイクロ波デバイス上で観測することと、昨年度に引き続き電気制御を、デバイスを改良することで非相反応答の巨大化を目的として次の3つの研究を行った。1つ目に、我々は空間反転対称性が破れた反強磁性体Ba2MnGe2O7の複数の反強磁性マグノンモードの1つにおいて非相反なマイクロ波伝搬を観測した。マイクロ波デバイスを利用してマグノン励起を観測し、理論式との比較から観測されたモードが、従来型の容易面型反強磁性マグノンモードであることが分かった。マグノンモードや測定条件によってマイクロ波非相反性が大きく異なっていることが分かったが、スピン波理論と久保公式及びdp混成機構を利用することで、量的に得られたマイクロ波非相反性が説明できることを明らかにした。2つ目に、昨年度に測定したBa2Mg2Fe12O22の類似物質であり室温で電気磁気効果が有限であるBaSrCo2Fe11AlO22の配向多結晶試料を利用することで、室温での非相反マイクロ波伝搬の電気的制御を行った。室温付近でマグノン励起によるマイクロ波吸収が観測され、電場・磁場によるマイクロ波非相反性の反転制御を行った。3つ目に、比較的小さい非相反性を容易に観測する新たな手法として、超伝導薄膜NbNを利用したコプラナーリング型マイクロ波超伝導共振器の作成を行った。しかし、必要な測定精度を実現できなかった。
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