研究課題/領域番号 |
16J10080
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩井 亮憲 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | プラズマ / メタマテリアル / 非線形光学 / マイクロ波 / FDTD法 / PIC法 |
研究実績の概要 |
気体プラズマと電磁波の複雑な相互作用は非線形波動を生成させ、工業的には可変な周波数逓倍器などへの応用可能性がある。本研究では、気体プラズマにメタマテリアルを組み合わせることで本来電磁波を伝搬させられないほどの高密度なプラズマ内に電磁波を導入させ、左手系の新たな電磁波伝搬領域のプラズマ波動の一モードとしての出現、従来の気体プラズマと電磁波の相互作用によるものより効率的な非線形光学応答を得ることを目的としている。 研究代表者は、マイクロ波帯における実験で気体プラズマ内で検出された高調波信号がメタマテリアル設置によって高強度化されたことを報告してきた。本年度の実験により、メタマテリアルがプラズマ生成機構そのものを変化させていること、その結果従来と大きく異なる空間的に不均一な気体プラズマが生成されており、尚且つこの不均一な状態が放電時間中常に維持されていることを明らかにした。また、本来は高密度プラズマとメタマテリアルはともに電磁波伝搬を妨げる役割を持つが、両者が合わさることによって電磁波伝搬が復活していることを確認した。なお、この結果は到来する電磁波検出用のアンテナを改良することによって得られた。 一方で、研究代表者は計算機シミュレーションを並行して行っており、気体プラズマを模擬する手法として信頼性のあるPIC法を援用した一次元電磁界シミュレーションコードにメタマテリアルの効果を付与することで、プラズマとメタマテリアルの複合領域で電磁波が左手系の伝搬をしていることを明らかにした。また、実験で見られた電磁波伝搬の復活、単純な系での非線形過程による高調波生成のメカニズム等を明らかにした。これらは、実験による観測結果の原因を明らかにする端緒となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において一年次は計算機シミュレーションコードの開発及びプラズマメタマテリアルの模擬に主眼を置いていた。研究代表者は、気体プラズマとメタマテリアルが同時に存在する領域での修正されたマクスウェル方程式を求め、電磁波が満足する分散関係(電磁波の周波数、波数空間での関係)が、通常の気体プラズマが持つ分散関係と大きく異なることを理論的に導出した。さらに、これらの構成方程式を一次元電磁粒子シミュレーションコードKEMPO1に応用することでメタマテリアルを仮定した空間での荷電粒子の運動、及び電磁界の時空間発展を模擬することに成功した。これらの計算結果より、高密度プラズマへ侵入した際の電磁波減衰がメタマテリアル効果によって打ち消さていること、プラズマメタマテリアル複合体内で電磁波が負位相速度を持って伝搬していることが確認された。以上の結果に加えて、入射電力、プラズマ密度に依存する非線形高調波生成も確認しており、一次元の計算機模擬実験はおおむね完成されたと思われる。 一方で、実験研究においても二年次より計画していた周波数フィルタを用いた実験を一年次から行っており、プラズマ生成が維持される限界に近い低入射電力領域での電磁波伝搬や高調波生成の観測にも成功している。また、複数回に及ぶプラズマ密度測定によって明らかとなったメタマテリアル設置時にのみ観測される不均一なプラズマ密度分布は、プラズマメタマテリアルによる高強度二次高調波生成の要因の一つとなっていると思われる。 さらに、実験装置の改良により、計算機実験では確認されていたプラズマメタマテリアル内における異常な電磁波伝搬を直接的に示す結果を得ることにも成功した。 以上、計算機シミュレーションコードの開発、計算機実験及び実際の実験による新規の結果の数々より、上記の評価を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の通り、今後は実験系の改良及び新たなメタマテリアルの作成をも行っていく予定である。メタマテリアルを作成する系の準備は本年度の内に完了している。異なる二つの方向でメタマテリアルを作成していく予定である。一つは、現在用いている単一の共振周波数、つまり基本波周波数に対してのみ磁気共振を持つもので、かつ電磁波伝搬方向の長さを縮小したものである。これは、生成される気体プラズマの電磁波伝搬方向の長さに対して過不足無いメタマテリアルを作成するためである。二つ目は、基本波周波数以外に二倍波周波数に対しても共振構造を持つものである。これは、プラズマメタマテリアル内で生成された二次高調波をさらに励振して高強度で取り出す機構を加えるためである。 また、測定系の設置位置をmm単位で制御できる機構を開発、導入し現在の観測結果よりさらに詳細なメタマテリアルの共振構造とプラズマ密度の空間分布の気体圧力依存性を明らかにする。これにより、メタマテリアルが持つプラズマ生成装置の新機構としての利点をも同時に示すことができると予想される。 計算機シミュレーションにおいては、現在用いている仮想的なメタマテリアルの磁気共振モデルをローレンツ共振モデルに書き換え、より実際のメタマテリアルに近いモデルを導入する。また、並行してメタマテリアルの共振回路そのものを電磁界シミュレーションで設計して、現在用いている仮想モデルが正しくメタマテリアルの振る舞いを模擬できていることを確認する。さらに、研究代表者が以前報告したメタマテリアル近傍に生成されるプラズマが与えるメタマテリアルへの影響についてもシミュレーションを行っていく。 次に、空間を二次元へ広げ、入射面内にプラズマ密度の不均一がある場合の偶数次高調波生成のメカニズムについても明らかにしていく予定である。
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