研究課題/領域番号 |
16J10084
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大島 崇義 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 光触媒 / ナノシート / 層状化合物 / 水素発生 / 可視光 |
研究実績の概要 |
本研究では、層状化合物の層を剥離することで得られるナノシート光触媒を用い、層空間と触媒表面で酸化・還元反応サイトが分離した逆反応抑制型光触媒系を構築することを目的としている。私はこれまでにKCa2Nb3O10ナノシート再積層体の層空間にPtを担持する方法を見出し、Pt担持KCa2Nb3O10による紫外光照射下での水分解反応の研究を行ってきた。この層空間にPtを担持する技術は、目指す反応場が分離した光触媒系を構築する上で基礎となる技術であり、この方法の汎用性を調べることは重要である。そこで本年度では金属酸化物ナノシート光触媒の大きさ、電荷、組成などを変化させ、これらの因子が層間へのPt担持・および光触媒活性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、研究を行った。実際に、ナノシートの大きさ、組成、電荷、水素還元温度を変化させた場合におけるPt担持への影響について検討を行うことができた。さらに可視光利用可能な材料の開発を目指し、層状酸窒化物Li2LaTa2O6Nの合成にも成功した。またこの化合物が可視光照射下での水素発生反応だけでなく、金属錯体と組み合わせることで二酸化炭素の還元にも活性であることを見出した。このような層状酸窒化物が可視光応答光触媒として機能した報告はほとんどなく、興味深い結果であると考えられる。これらの結果のうち、シートの電荷と水素還元温度に関するものは、査読付きの国際的なジャーナルに発表した (2報)。Li2LaTa2O6Nに関しても現在論文執筆中である。さらに本年度の結果は国内の学会だけでなく、海外の学会でも積極的に発表し、議論を行った (国内3件、海外3件)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はナノシートの大きさ、組成、電荷、厚さなどがナノシート再積層体の層空間修飾に対して及ぼす影響を調べた。Ca2Nb3O10-ナノシートの大きさを変化させた場合、大きなナノシートを用いた場合、Ptが層空間に担持されやすくなる傾向が得られた。また、組成が異なるSr2Nb3O10-を用いた場合でも、ナノシート再積層体の空間にPtを担持できることがわかった。シートの電荷の影響を調べるため、新規の層状金属酸化物光触媒K2CaNaNb3O10を合成し、そのナノシート化を試みた。K2CaNaNb3O10の合成には成功したものの、そのナノシート化は困難であり、2-の電荷を有するシートは合成困難であることが示唆された。しかし、合成したK2CaNaNb3O10は層空間に空気中の水を自発的に取り込むというユニークな性質を有し、かつ層空間が酸化反応サイトとして機能していることが示唆された。K2CaNaNb3O10のような層間に水を取り込む性質を有する化合物を用いることで、層間が酸化サイト・触媒表面が還元サイトとして機能する逆反応抑制型光触媒系が構築できる可能性があり、この知見は今後の研究を進めていく上で重要であると考えられる。Ptを担持するときの水素還元温度を変化させて場合では、温度の上昇に伴いPtが層空間の外に出ていくことが明らかとなり、より低温での水素還元が適していることがわかった。 さらに、太陽光利用の観点から、可視光利用可能な物質の合成にも取り組み、層状酸窒化物Li2LaTa2O6Nをほぼ単一相で合成することに成功した。またPtを担持することで、可視光照射下において水素発生可能あり、さらにCO2還元触媒部位として、金属錯体を吸着させることでCO2還元にも活性を示すことを見出した。この結果は層状酸窒化物が可視光利用可能な光触媒として、有望な材料である可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、目指す触媒系を構築する上で重要な可視光照射下で機能する光触媒系の構築を目指す。一つ目の戦略として、可視光を吸収できる他の物質をナノシート再積層体に吸着させ、可視光応答化を目指す。可視光を吸収する物質として、可視光領域にプラズモン吸収を有するAuなどの金属ナノ粒子や、色素増感太陽電池でよく用いられるRuなどの金属錯体考えている。昨年度の研究から、層空間の就職には大きなサイズのナノシートを用い、比較的低温で水素還元を行うことが適していることが示唆された。このような条件でPtを担持したナノシートの再積層体に対して、可視光吸収部位を吸着させ、可視光照射化における水素発生反応を行う。 さらに、昨年度の研究から 層状酸窒化物が可視光応答型光触媒として有望であることが示唆された。そこで2つ目の方法として、新規の層状酸窒化物の合成にも取り組む。Li2LaTa2O6NのLiはサイズか小さいため、層間が縮み不安定であると考えられる。Liをより大きなイオン半径を有する他のアルカリ金属イオン (Na, K, Rb, Cs)に置換した新規の化合物を合成し、その光触媒特性を調べる。これらの化合物は昨年度合成したK2CaNaNb3O10と類似の構造を有し層空間が水和されると期待される。このような層区間が自発的に水和される化合物を用い、層空間が酸化サイト、触媒表面が還元として機能する触媒系の構築を目指す。
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