二次元電子分光は凝縮層中における輸送問題や環境・コヒーレンスの効果を検出するための実験的手段として盛んに用いられている。29年度の研究では、前年度に作成した凝縮相における任意多準位ポテンシャル上の波束ダイナミクス・多次元分光を取り扱う方法論の3通りの応用・派生を考案し検証を行った。 1つは光駆動分子モーター系への適用である。この系では波束は幅広い座標空間上を運動し、その結果として非調和ポテンシャル・非コンドン双極子を取り扱わなければならない。この系において二次元電子分光スペクトルを計算し、波束ダイナミクスとの対応を議論した。 もう1つは、より化学において興味のある多自由度問題に適用するための拡張である。この方法論を内部転換問題に適用し、円錐交差の存在によってポテンシャル構造が生成物の収率等に敏感に反映されるようになることや、断熱結合を与えている振動モードがより強く励起されることを示した。またこの多自由度問題においても効率的に多次元分光を計算できる手法を新たに考案した。 最後の1つは、熱浴の量子低温性を効率的に正しく取り入れるための拡張である。非断熱遷移過程では高い振動数を持つ電子遷移がダイナミクスに結合しているため、室温環境であっても相対的に極低温として扱わなければ様々な非物理的問題が生じることがあり、特に系と環境の結合が強い場合に顕著である。この欠点をより低コストで解決する方法を考案し、さらに系と環境の結合が強い極限で使える粗視化された方程式も導き、非物理的な不整合を除きつつ各種パラメーター領域・着目している物理現象に対して最適な運動方程式を得られるように条件を精査した。また、これらの方法論とサーフェイスホッピング法などの広く用いられている半経験的方法論とを比較し、半経験的方法論は本質的な多体問題である凝縮相での問題を上手く取り扱えていないことを示した。
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