研究課題/領域番号 |
16J10106
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹田 茂生 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | グルカンデンドリマー / 抗腫瘍効果 / 細胞内デリバリー / 核酸デリバリー |
研究実績の概要 |
両親媒性高分子は、水中でその疎水基が疎水性相互作用により会合し自己組織化することで粒子を形成する。近年、ナノサイズの高分子ゲルが医療、バイオテクノロジーなど様々な分野から注目されており、申請者の所属する研究室では、疎水化した多糖が水中において自己組織的に会合し、粒径20-30 nmのヒドロゲル (ナノゲル)を形成することを見いだした。中でも、コレステロール置換プルラン (CHPナノゲル)は、タンパク質や薬物の内包・放出が可能であるため、ドラッグキャリアとして研究が展開されている。この機能を利用し、抗がん剤治療への応用が期待されているsiRNA(small interfering RNA)を目的の腫瘍に届ける核酸デリバリーを目指す。 申請者はナノゲルのサイズ制御および、新たな機能化ナノゲルの作成を目指し、球状多糖であるグルカンデンドリマー (GD、多糖ナノスフェア)を多糖骨格として新規ナノゲルの実現を目標に研究を行っている。GDはデンプンの分解物に三種類の酵素を加えて合成された、α-1,4;α-1,6-グルカンである。この多糖は、特徴として内部に20単糖程度の環状構造とα-1,6結合による分岐を10%程度持つことで高密度かつ水溶性の高い多糖である。この多糖はグルカンを糖骨格にしていることから、生分解性も高い。また酵素の反応条件を制御することにより、分子量の異なるGDの合成が可能である。 そこで申請者は、新規多糖のGDにコレステリル基や長鎖アルキル基であるドデシル基などの疎水性基や正電荷を有するスペルミンなどのカチオン性基を修飾した誘導体を合成し、血管新生因子を切断するsiRNAとの複合体をガン細胞に添加することで血管新生因子を抑制し、担癌マウスに局所投与することで有意な抗腫瘍効果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特徴的な多分岐構造と高い水溶性を持つ新規「多糖ナノスフェア」であるグルカンデンドリマー(GD)に着目した。GDにコレステリル基(CHGD)や長鎖アルキル基(C12GD)などの疎水性基を修飾するだけでなく、スペルミンなどの正電荷をもつ機能性基(GD-spe) を修飾することで細胞導入効率の高い機能化多糖ナノスフェアを調製した。 合成物は水中で安定な微粒子を形成し、スペルミンを導入したものは正電荷を有しており、DDSや再生医療への応用を目指した核酸デリバリーキャリアとしての機能を評価した。本実験では目的のmRNAを切断しタンパク質の発現を抑制する(RNA干渉)small interfering RNA (siRNA) を、従来用いられてきた低分子の化学合成薬剤に替わる次世代の薬剤としてがん治療に用いた。カチオン性GDと血管新生因子であるVEGFをターゲットとしたsiRNAとの複合体をマウス腎ガン細胞(Renca細胞)に添加すると、目的のmRNAの減少が見られ、さらに市販薬として広く用いられている核酸導入試薬であるlipofectamineよりも優れていることが確認された。 次に担癌モデルマウスに局所投与したところ、キャリア単体やネガティブコントロールとの複合体を担癌マウスに局所投与した群では腫瘍の増大を抑制できなかったが、siVEGFとカチオン性GD複合体を投与した群で、抗腫瘍効果が見られた。これらの結果から、機能性基を修飾したグルカンデンドリマーは核酸薬剤を細胞内に送達するキャリアとして機能することが明らかとなり、核酸医療への応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の臨床応用を目指すにあたり、siRNAの局所投与による抗ガン治療ではガンの種類によって治療が困難となるため、静脈投与による治療が必要であると考えられる。本研究で用いているグルカンデンドリマーを担癌マウスに静脈投与して腫瘍に蓄積させることを検討しているところである。今後、成果をまとめて報告する予定である。BALB/Cマウスの様々な部位にガンを作製し、ガンの部位によってキャリアの蓄積量に違いがあるかを検討し、グルカンデンドリマーを用いた最適な治療効果を検討する。その知見を基にsiRNAとの複合体を担癌マウスに静脈投与して抗腫瘍効果を観察し、昨年度に行った局所投与による治療実験との差異を検討する。
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