研究課題/領域番号 |
16J10112
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 草太 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 環境動態 / 生物指標 / 食物網 / 放射線影響 / カイコ / 東京電力福島第一原子力発電所事故 |
研究実績の概要 |
東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性核種の長期的な環境動態の予測と生態系影響評価に資するため、本研究は、節足動物及び環形動物を対象として、放射性セシウムの食物網を介した移行を明らかにするとともに、低線量・低線量率被ばくの生物影響の解明を目的とする。 平成28年度は、8-9月に計10日間のフィールド調査を行ない、対象とする節足・環形動物の目標サンプル数(各50-100頭)を確保した。継続調査による放射性セシウム量の年次変動の結果から、コバネイナゴとエンマコオロギでは、放射性セシウム量の減少が認められた一方で、ジョロウグモは各年度のばらつきが大きく、減少は認められなかった。ジョロウグモは、捕食者として多様な餌資源を利用しており、特に放射性セシウムが蓄積する土壌有機物層などの腐食連鎖由来の餌への依存が大きいことが、放射性セシウム量の減少しなかった要因として挙げられる。また、土壌有機物層を餌資源とする腐食性のミミズの放射性セシウム量が、ジョロウグモと比較して1桁程度高いものであったことからも腐食連鎖が移行経路として重要であることが示唆された。 環境中で想定される低線量・低線量率の放射線影響を解明する目的で、カイコをモデル生物とした内部被ばく実験の検討を進めた。放射性セシウムを使用した実験を行なう前段階として、塩化セシウム(CsCl)を人工飼料に添加することで、摂食を介したCsClの毒性影響の評価を実施した。この結果からCsClを含む人工飼料を摂食することによる致死、摂食性、蛹化率、及び羽化率等の致死以外の影響に関する閾値データを取得した。この閾値データから、実験で使用する放射性セシウム溶液(137CsCl)に担体として含まれるCsCl濃度(0.05mg/g)は、致死以外の影響が現れる閾値以下であることを確認し、来年度から開始する実験の基礎的なデータを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、目標としていた節足・環形動物の採集数(各50-100頭)を確保することができた。これらのサンプルは、ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリによって放射性セシウムを定量した。ミミズについては、オートラジオグラフィーによって、放射性セシウムの体内分布を可視化した。また、放射線影響評価のため、カイコを用いた摂食実験を開始し、塩化セシウム(CsCl)の毒性データを取得した。上記の研究成果は、国内及び国際学会で公表した。さらに、2012年から継続している調査から、節足動物の食性によって、放射性セシウム濃度の年次変動が異なることを明らかにした。この成果は、国際誌にオープンアクセスとして公表した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き節足・環形動物のサンプリングを継続し、長期的なデータの取得を目指す。放射性セシウムの減少を示さなかったジョロウグモの餌資源の放射性セシウム量を明らかにするため、マレーゼトラップ等を用い飛翔性の昆虫類のサンプリングを実施する。また、他の種と比較して放射性セシウム量が高い値である表層性のミミズに対して、放射性セシウムの代謝実験を行ない、放射性セシウムの移行と蓄積性に関するデータ取得する。また、カイコに対する放射性Csの内部被ばく実験を開始し、低線量・低線量率被ばく影響評価のための実験系を構築する。
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