東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性核種の長期的な環境動態の予測と生態系影響評価に資するため、本研究は、節足動物及び環形動物を対象として、放射性セシウムの食物網を介した移行を明らかにするとともに、低線量・低線量率被ばくの生物影響の解明を目的とする。 平成30年度は、9-10月に計12日間のフィールド調査を行ない、対象とする節足動物と表層性のミミズの目標サンプル数を確保した。また、今年度は造網性のクモ類の餌資源として重要な飛翔性昆虫のサンプリングに成功した。飛翔性昆虫の放射性セシウム濃度は、川岸より森林内で高い傾向にあった。一方、腐食性のハエ類においては、森林と川岸の双方から高濃度の放射性セシウムが検出された。このことから、飛翔性昆虫を餌資源とする造網性のクモ類にとって、腐食連鎖を介した放射性セシウム移行の寄与が大きい可能性が示唆された。また、腐食連鎖の指標として重要な表層性のミミズにおける放射性セシウムの体内滞留時間を実験的に求めた結果、体内滞留曲線は二相性を示し、生物学的半減期は、早い成分が約0.1日(95%)、遅い成分が約27日(5%)と算出された。この結果からミミズにおける放射性セシウムの代謝は速く、体組織への吸収は少ないことが示唆された。 昨年度構築したカイコに対する低線量率被ばくの実験系を用いて、発生初期段階から孵化までの間、低線量率被ばくの状態を維持した卵の孵化率を観察した。その結果、低線量率被ばく群では、孵化率への影響は認められなかった。また、ガンマ線照射装置を用いて、発生初期の卵に対して、0.01-30 Gyまでの段階的な照射を実施し、孵化率を観察した。その結果、30 Gyの照射群では、孵化率が有意に低下したが、0.01-20 Gyの照射群では、孵化率への影響は認められなかった。
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