研究課題
本年度は,申請者が過去に見いだした希少な磁性ディラック電子系のモデル物質であるEuMnBi2について,詳細な磁気構造と電子構造の解明,ならびに周辺物質における新奇な輸送特性の開拓を目的として研究を進めた.EuMnBi2はディラック電子をもつBiの正方格子シートと,磁性を持つEuとMnを含む絶縁層からなる層状化合物である.申請者は前年度までに,外部磁場により絶縁層の磁気構造を変化させることで,ディラック電子の量子伝導を制御できることを示した.本年度はまず,この現象について微視的な電子構造の観点から精査した.EuMnBi2における異なる磁気構造に対して,電子構造を分析する強力な手段である量子振動現象の詳細な測定・解析を行い,ディラック電子状態が磁気構造の変化から受ける影響を定量的に明らかにした.さらに磁場方位を傾けたときの振る舞いから,強磁場下においてディラック電子が形成するランダウ準位に大きなゼーマン分裂が生じることを示した.これは重元素であるBiに由来する強いスピン軌道相互作用を反映していると考えられる.また,ゼーマン分裂の大きさが磁気構造によって変化するという予想外の結果も得られた.これらの結果は,現在申請者が論文にまとめている.さらに,EuMnBi2の周辺物質の開拓を行った結果,BiサイトをSbで置換したEuMnSb2の純良単結晶の育成に成功し,基礎物性の測定を進めた.その結果,この物質では正方格子シートがわずかに歪んでおり,また絶縁層の磁気構造がEuMnBi2とは大きく異なることが分かった.さらに固溶系EuMn(Sb,Bi)2の単結晶育成を行い,組成のわずかな変化によって正方格子シートの歪みが解消すること,またその場合にはEuMnBi2と類似した磁気構造が実現することが分かり,正方格子シートの歪みと磁気構造が強くカップルしていることを示した.
1: 当初の計画以上に進展している
主要な研究目的であったEuMnBi2の電子構造の精査について,異なる磁気構造に対して量子振動現象の詳細な測定・解析を行い,ディラック電子状態が磁気構造の変化から受ける影響を定量的に示すことができた.さらに強磁場下において,ディラック電子が形成するランダウ順位に大きなゼーマン分裂が生じること,その分裂の大きさが磁気構造に依存することなど,当初は予想していなかった結果も得られている.これらの結果は,現在申請者が論文にまとめている.また周辺物質の開拓についても新物質EuMnSb2ならびに固溶系の単結晶育成に成功し,正方格子シートの歪みと磁気構造の相関を新たに見いだした.以上の理由から,当初計画していた以上の進捗が得られたと判断した.
当初の計画通り,引き続きEuMnBi2の詳細な電子構造,磁気構造の解明を進める.現在磁場下での中性子散乱,X線共鳴磁気散乱の実験が進行中であり,詳細な磁気構造の解明を試みる予定である.また電子構造についても量子振動に加えてARPESによる電子状態の観測を試みる.EuMn(Sb,Bi)2の輸送特性を調べ,正方格子シートの歪みや磁気構造との相関を明らかにする.
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固体物理
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平成27年度東京大学低温センター年報
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