研究課題/領域番号 |
16J10126
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江川 悟 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 軟X線 / 結像 / ウォルターミラー |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは軟X線結像用光学素子であるウォルターミラーを高精度に作製し、評価を行うこと、そしてその応用光学系の提案と開発である。作製昨年度までに、軟X線用結像素子であるウォルターミラーの作製と性能評価を行っている。 ①高次高調波軟X線を用いたコヒーレント結像 続いて本年度はウォルターミラーを用いた新規光学系の提案とその実現を進めている。具体的には、FELや高次高調波のような優れた特性を持つコヒーレント光源の軟X線結像顕微への応用を行う。これらの光源とウォルターミラーを組み合わせて結像顕微システムを構築することで、フェムト秒シングルショット結像やマルチスペクトル結像が可能となる。高次高調波を光源とした軟X線結像系を構築し、コヒーレント結像の実証実験を行った。サブミクロン空間分解能を実現し、ウォルターミラーを用いた軟X線コヒーレント結像が可能であることを示した。課題として、ウォルターミラーの形状精度が理想的な軟X線コヒーレント結像を行うには不足していることが明らかになった。ミラーの形状誤差による不規則な干渉により照明分布が不均一になるという、コヒーレント結像に特有の問題が発生した。よりクオリティの高い軟X線コヒーレント顕微を実現するためには、ウォルターミラーの形状精度を向上させる必要がある。 ②FELを用いたコヒーレント結像 高強度フェムト秒パルス光を放射するFELを用い、同様にウォルターミラーによるコヒーレント顕微を行った。高次高調波を用いた結像顕微と同じくサブミクロン結像分解能を達成し、本コヒーレント結像手法が光源によらず可能であることを示した。さらに、高強度パルス光を用いてフェムト秒シングルショット結像を実現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、軟X線結像用光学素子であるウォルターミラーを高精度に作製し、これまで達成されることのなかった高空間分解能の結像を実現することが目的であった。しかし共同研究と研修により軟X線コヒーレント光源である高次高調波、自由電子レーザーの利用が可能となり、これまでにない新たな結像手法の提案が可能となった。当初利用を想定したX線管はコヒーレンスが低くさらに暗いため、これを用いた新規の有用な光学系の提案は困難であった。一方で高次高調波や自由電子レーザーは直進性が高い、パルス幅が短い、スペクトルがブロードでは無いなどの優れた特徴を持つ。これら新規の光学系と高精度なウォルターミラーとを組み合わせることで、時分解結像やマルチスペクトル結像、高速度イメージングのような高度な結像法が可能となる。これらのコヒーレント軟X線を用いた顕微、さらにフェムト秒時間分解イメージングを実験的に実現するに至っており、研究は当初計画以上に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
①ウォルターミラーの高精度化 これまでに行ったシミュレーションと実験により、軟X線コヒーレント結像において理想的な像のクオリティを得るためにはウォルターミラーの作製精度が不足していることが判明している。具体的には結像分解能が理想より悪く、さらに形状誤差による不規則な干渉により照明が不均一になっている。ウォルターミラーの作製プロセスでは、まずはじめにミラーの反転形状を持つマンドレルを作製し、電鋳法を用いてその形状を転写する。高精度計測と形状修正加工を行うことで、マンドレル精度を向上させ、理想的なクオリティの軟X線コヒーレント像を得ることを目指す。 ②軟X線シングルショット結像による過飽和吸収現象の観察 提案したコヒーレント結像システムの応用として、シリコンの可飽和吸収現象の結像顕微観察を行う。高強度の軟X線FELを集光することで非線形現象であるシリコンの可飽和吸収を引き起こし、その様子を結像系を用いて二次元像として観察する。
|