本研究の目的は、南インド、タミル・ナードゥ州において、第三ジェンダー(アラヴァーニ)をめぐって、諸個人が性に関する統治の様式をどのように経験し、あるいはそこから逸脱していくのか、またかれら自身がこうした統治に働きかけるとき、それがどのような動きとなっていくのかを明らかにすることであった。 本年度は約6ヶ月の現地調査を行いそこで得られた資料を分析した。 第一に、タミル語新聞とインド全土で発刊されている英字新聞における第三ジェンダーに関連する記事の収集を行った。その結果タミル語の新聞と英字新聞との間で掲載頻度に大きな差があることが明らかになった。 第二に、アラヴァーニたちが男たちとの性行為やセックスワークを行う特定の場所の周辺で、継続的な参与観察及び聞き取りを行った。この場所でアラヴァーニたちは恒常的な強姦や暴行の危険に曝されている。その主な要因は、1)アラヴァーニたちが男と性行為をすること及びセックスワークが刑法によって違法行為とされており、そうした際に起こる暴力が多くの場合不可視化され、罪に問えなくなっていること、2)社会保障が(拡大)家族を前提としたものになっていること、3)家族、学校、職場からの排斥によって安定した生計および生活を営むことができないことである。 これらの困難をもたらす諸要因について、CBO(Community Based Organization)は改善を働きかけてきた。それを可能にしたのは、HIV/AIDSのリスク集団を把捉しようとする国際基金と政府の政策であった。だがCBOとは異なり、政府の政策はアラヴァーニたちの被る排斥が婚姻と生殖を至上の価値とする親族規範に起因することを隠蔽し、あたかも第三ジェンダーという特別な人々がいるだけであるかのような見かけを与えるという問題を孕んでいる。この構図が、アラヴァーニたちに男たちが振るう暴力を助長していると推測できる。
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