本年度も引き続き、惑星よりも少し質量の大きい褐色矮星の研究に取り組んだ。若い褐色矮星の系統的な観測によると、褐色矮星は少なくとも10Myr程度のタイムスケールではそれほど角運動量を失うことなく収縮しスピンアップするとされている。そこでそのような高速回転する褐色矮星のより長いタイムスケールの構造の進化計算を調べるために、恒星進化計算コード、MESAコードと回転平衡形状計算コードの両方を用いて計算した。その結果、年齢が5Myrで自転周期が8時間から16時間程度、年齢が10Myrで自転周期が5時間から7.5時間程度で回転している褐色矮星はスピンアップし、100Myrから1Gyr以内に回転で形状が保てなくなるブレイクアップ回転に到達することがわかった。さらに実際に自転が観測されている褐色矮星と理論予想を比較したところ、少なくない数の褐色矮星がブレイクアップ回転に到達しうることが明らかになった。しかし実際の褐色矮星はブレイクアップしていないため、この結果は、老齢な褐色矮星が回転によるウインドやディスクなどで角運動量を捨て去っていることを示唆しており、今後の観測でその存在が明らかになれば自転進化の理解が飛躍的に進むことが分かった。 一方で、高速回転する星の構造を求めるための数値計算スキーム研究に関しても進展があった。従来、回転する星の構造を数値的に計算する時には、ニュートン法などの数値スキームが用いられていたが、ニュートン法は初期推量が解に十分に近くないと求まらないという欠点が知られていた。そこで、初期推量が解から遠くても大局的に収束する数値計算スキーム、W4法を開発し改良した。W4法を用いることで従来困難であった問題を効果的に計算することが可能となり、その応用として回転し磁場を伴っている定常降着流の計算・研究も行った。その計算結果とW4法に関する論文は、査読付き論文として出版された。
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