今年度は,社交不安を示す者における社交場面に対する生体の適切な生理的応答性が鈍化している状態,とくに,社交場面を経験した後のコルチゾール反応の回復が生じにくい状態を,認知的情報処理過程の観点から記述するための検討を行なった。具体的には,(a)認知的情報処理過程がコルチゾール反応の回復に及ぼす影響を検討する実験研究(研究1:国際学術雑誌に投稿中),(b)コルチゾール反応が因果的に認知的情報処理過程に及ぼす影響を検討する実験研究(研究2:データ収集中),(c)社交不安を示す者における認知的情報処理過程への介入がコルチゾール反応の回復に及ぼす影響を検討する研究(研究3:実験実施のための予備的な調査研究が完了し,国際学術雑誌に投稿中)を行なった。 今年度の研究の結果,社交場面を経験した後に社交場面について回顧的に思考を続けることで,コルチゾール反応の回復が阻害されることが明らかになった(研究1)。また,このような回顧的思考を多く行なう傾向にある者ほど社交不安が経時的に維持されやすいが,社交場面のネガティブな側面以外に着目する情報処理(認知的再評価)にも従事する傾向がある場合には社交不安は維持されにくいことが明らかになった(研究3)。以上の研究成果は,従来主に生物学的な基盤を中心として理解されてきたコルチゾール反応の回復の個人差を心理学的変数によって一定程度予測,制御できることを示す基礎的な知見となると考えられる。
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