研究課題/領域番号 |
16J10281
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
松岡 とも子 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 美術史 / 韓国 / 近現代 / 植民地研究 / 朝鮮戦争 / 伝統 / 絵画 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
1、先行研究レビュー 韓国で国民的画家と評される金煥基(キム・ファンギ/1913-1974)、朴壽根(パク・スグン1914-1965)を中心に、韓国近現代美術史における作家・作品研究と、文化人類学分野における「伝統」研究の成果を整理し《伝統》研究における視点の差異を示し口頭発表を行った。 2、資料調査 本研究では、これまでの作家作品研究で看過されてきたパトロンや展覧会企画者などの展示制作活動に直接的に関わってきた交友関係の調査や、各時期の政治的背景における画家の社会的状況についての資料提示を行い、分析することを目的としている。今年度は画家の居住地や交友関係、支援者に関する資料調査のうち、おもに1950~60年代の具体事例の確認と精査を行った。 (1)金煥基(1913-1974)日本大学芸術学部同窓会資料調査。留学期の日本人画家の資料調査。1950年代後半パリ滞在~60年代ニューヨーク移住期の書簡、絵葉書調査。重要関係者・元国立博物館館長崔淳雨への絵葉書、交友関係調査。 (2)朴壽根(1914-1965)日本統治期の出生地・江原道揚口郡揚口郡(現・朴壽根美術館建設)踏査。1950年代居住地・ソウル市東大門区チャンシン洞踏査。1950~60年代作品調査。アメリカ人コレクターとの往復書簡、カタログ、展覧会パンフレット等調査。 (3)アメリカ人コレクター 朝鮮戦争期から1950年代までの在韓アメリカ人であり、朴壽根の絵画の購入者でもあったパトロンに関連する新聞、雑誌等関係資料調査。 3.インタビュー調査 画家金煥基と活動をともにした画家にインタビュー調査を行い、1930年代の留学期から1970年代のアメリカ移住期まで多くの示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由により、研究はおおむね順調に進展していると考える。 1、本研究課題について、美術史学と文化人類学分野を中心とする先行研究のレビューにより改めて課題を整理することができ、目標資料の収集について明確化することができた。レビューについて研究会等で口頭発表することにより様々な分野の研究者から新たな知見を得ることができた。 2、研究対象の画家である金煥基と朴壽根の重要事件について、考察点が具体化できた。植民地期の終わりからアメリカ軍政期、朝鮮戦争期の1950年代に的をしぼってソウル・東京での現地踏査、資料調査に取り組んだ。これにより各時代の社会背景と両画家の絵画制作、交友関係を具体的に結びつけた資料収集を行うことができた。 3、対象画家と同世代の画家にインタビュー調査を実行することができた。植民地期とその後の生活について文献資料として、学生生活、居住地、交友関係など、文字資料に残らない多くの情報を得たことで、その後の資料収集と分析に活かすことができた。 4、いずれの現地調査においても日韓の様々な美術研究者・美術館関係者と交流を結び、調査活動への助力と専門的な知見、アドバイスを得ることができた。 5、研究会での報告および、小文の執筆などによって研究成果の一部が発表できた。29年度は学会での口頭発表が1件、研究会での発表が1本決定している。
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今後の研究の推進方策 |
1、28年度の成果によって調査先と調査資料がさらに明確化したため、各施設での資料調査を続ける。昨年度は1930年代から50年代、植民地期からアメリカ軍政期、朝鮮戦争期にあたるの金煥基、朴壽根両画家の資料収集を行ったため、今年度は60年代以降の資料収集を実行し、時代ごとの社会背景と美術動向の関連を精査する。韓国では国立国会図書館で社会背景を表す全体資料と新聞雑誌検索を行い、個人の美術研究所および美術館図書室で60年代以降の美術資料収集を行うなど、効率的な資料調査を進める。作家と関係者の直接的交流を示す資料については、個人美術館や関係者の助力を得る。 2、昨年度は多分野の研究発表の場か、美術史分野での先行研究レビューを中心に口頭発表を行った。今年度は韓国・朝鮮研究の学会・研究会等で積極的に成果を発表し、朝鮮半島の歴史・社会背景についての専門的知見を得て分析の糧とする。植民地期の留学生活、朝鮮戦争期の在韓米軍の活動、軍事政権期の文化政策について美術界以外の動向を把握する。 3、昨年度は順調に資料調査が進められたが成果の発表については口頭発表か小文エッセイにとどまっていた。今年度はアメリカ軍政期から朝鮮戦争期の朴壽根の活動について研究成果の一部を学術論文として発表することを目的のひとつとし積極的に投稿を行う。
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