研究課題/領域番号 |
16J10309
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安田 翔也 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | システム生物学 / 免疫細胞 / 非線形微分方程式 / B細胞受容体(BCR) / Anti-IgM抗体 |
研究実績の概要 |
免疫細胞の一種であるB細胞は、細胞外からの増殖刺激の濃度に応じて生存率(増殖率)が高まることが知られている。しかし、我々は「ごく微小な増殖刺激ではかえって死にやすくなる」ことを新たに発見した。これは、増殖刺激を受けてB細胞内に生じる生存シグナルに「閾値」のような機構が存在することを意味しており、この機構を明らかにすることはB細胞性免疫疾患の新規治療法を導く手掛かりとなる。上記は、同種の刺激でありながら刺激量によって応答が変わる「非線形的現象」のため、静的である分子生物学的アプローチでの解明は難しい。そこで、数理モデル化とシミュレーションによって生存シグナルを統合的に理解する、システム生物学的アプローチをとった。
スタンダードな手法が確立していない免疫系の数理モデル化に対して、単純な非線形微分方程式から順に4~5通りの異なるモデルを提案し、現象との一致を検討して全く新しいオフセット型の非線形モデルを提案した。具体的には、本現象は、細胞内に恒常的に生じる微小な内因性シグナルと抗体刺激によって生じた外因性シグナルが「競合」することで起こることが明らかになった。また、B細胞内に生じる内因性・外因性シグナルの相対的な強さや、増殖刺激に対する閾値も推定された。これらの数値は実測する手段がなく、初めて定量的に推定されたものである。この結果を受けて、国内学会でのポスター発表2件、雑誌論文投稿1件を行った。このような新しい数理モデルの検討は、システム情報系専門出身者にとっても簡単にできることではなく、生物系専門出身者の強みと視点を生かした独創的な研究となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つの研究課題の内のひとつ、研究課題1(B細胞集団の増殖速度の非線形的応答の解明)についてはおおむね期待通りの進展があった。計画には、BCR(B細胞受容体)を異なる強度で刺激した実験データを得ることと、それらの解析・モデル化・シミュレーションの2段階があるが、どちらも予定通りに進展したといえる。 この結果、2016年9月には第89回日本生化学会大会にて、新規実験データを主題にしたポスター発表を行うことができた。また、2016年12月には第45回日本免疫学会学術集会にて、モデル化とシミュレーションを主題にしたポスター発表を行った。現在、これらの結果をまとめて2017年4月中に論文投稿予定である。 さらに、2016年12月から約3ヶ月間の日程で、アメリカ合衆国ニューヨーク州のAlbert Einstein College of Medicine, Yeshiva Universityへの海外渡航を実施し、老化やがんに伴う免疫細胞のDNAメチル化変異の解析に従事した。本海外渡航は、国際コミュニケーション能力の向上に寄与しただけでなく、免疫細胞の挙動とDNAメチル化のようなエピジェネティクスに関連があるという示唆を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題1を進める途中、B細胞がもつ別の受容体にも非線形的な応答が見出されたため、これについても詳細な実験を行う予定である。また、研究課題2(単一B細胞の生と死の中間状態の解明)については、研究課題1を進める中で得られた知見から多少の修正を行う予定である。 さらに、アメリカ合衆国ニューヨーク州のAlbert Einstein College of Medicine, Yeshiva Universityへの海外渡航中に、免疫細胞の挙動とDNAメチル化のようなエピジェネティクスに関連があるという示唆を得た。これについても解析の枝を広げる検討を行っている。
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