免疫細胞の一種であるB細胞は、細胞外からの増殖刺激の濃度に応じて生存率(増殖率)が高まることが知られている。しかし、私たちは「ごく微小な増殖刺激ではかえって死にやすくなる」ことを新たに発見した。これは、増殖刺激を受けてB細胞内に生じる生存シグナルに「閾値」のような機構が存在することを意味しており、この機構を明らかにすることはB細胞性免疫疾患の新規治療法を導く手掛かりとなる。上記は、同種の刺激でありながら刺激量によって応答が変わる「非線形的現象」のため、静的である分子生物学的アプローチでの解明は難しい。そこで、数理モデル化とシミュレーションによって生存シグナルを統合的に理解する、システム生物学的アプローチをとった。
昨年度に引続き、復旦大学基礎医学院免疫学科との共同研究において、数理モデル化とコンピュータシミュレーションを担当した。研究内容としては、スタンダードな手法が確立していない免疫系の数理モデル化に対して、単純な非線形微分方程式から順に4~5通りの異なるモデルを提案し、現象との一致を検討して、全く新しいオフセット型の非線形モデルを提案している。本年度は国内学会でのポスター発表2件、雑誌論文掲載2件を行ったほか、論文投稿中が2件ある。また、海外渡航中に得られた関連成果も論文掲載済みである。アウトリーチ活動として、研究手法を生かして、合成生物学の国際大会にも参加した。総括として、当初の計画から一部変更はあったが、継続的に成果が出ているといえる。
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