研究課題/領域番号 |
16J10315
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 拓矢 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | ノルコロール / 反芳香族性 / ポルフィリン類縁体 / 共役拡張 / ビラジカル / 置換基効果 / 電荷移動度 |
研究実績の概要 |
本研究では反芳香族性を示すノルコロールを用いて、以下のように反芳香族化合物の二次元的および三次元的な拡張を試みそれによる物性変化の解明を目指した。 1.ベンゼン縮環によるノルコロールの二次元的拡張 反芳香族化合物の共役を芳香環で拡張した例は限られており、その達成はπ電子系の理解に重要な知見をもたらすと期待できる。そこで報告者は、ベンゼンで二次元的に共役拡張されたテトラベンゾノルコロールの合成を試みた。既報の手法を応用することで目的化合物を合成し、その同定およびX線結晶構造解析に成功した。1H NMR測定およびDFT計算から、ベンゼン環の縮環によって分子全体の反芳香族性が増大するというこれまでに報告例のない現象を明らかにした。また、各種磁気測定よりこの分子がビラジカル性を持つことも明らかにした。さらなる実測と計算より、これらの現象はテトラベンゾノルコロールの非常に狭いHOMO-LUMOギャップが原因であると結論付けた。 2.置換基効果によるノルコロールの物性制御と三次元的拡張 ノルコロールの置換基効果はほとんど明らかにされていなかったことから、様々な置換基を導入したノルコロールの合成を試みた。検討の結果、二種類の異なる置換基を導入した非対称な分子デザインを採用するとノルコロールの安定性を維持しつつ様々な誘導体を得られることが分かった。合成した非対称ノルコロールの物性を調べると、導入した電子供与性基の影響で大きな電荷移動吸収を持つこと、骨格が高い電子ドナー性を示すことがわかった。さらにX線結晶構造解析から、置換基の微妙な変化で各分子のパッキング様式が大きく変化することを明らかにし、中には三次元的な積層構造をとるノルコロールもあった。共同研究によってこれらの導電性を評価した結果、三次元積層に由来した電荷移動度の向上が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題で報告者は反芳香族化合物であるノルコロールの共役拡張に関する研究を精力的に進めている。特に、ノルコロールのπ拡張化合物であるベンゾノルコロールの合成に成功し、報告の少ない反芳香族化合物の共役拡張を達成したことは大きな成果である。このベンゾノルコロールは極めて大きな反芳香族性や一重項ビラジカル性など、当初予想していなかった興味深い物性をもつことを明らかにし、それら物性の起源についても詳細に解析を進めている。また、非対称に置換基を導入したノルコロールの導電性を共同研究によって評価することで、反芳香族化合物の具体的な応用可能性を示したことも、本研究の大きな成果の一つである。報告者はこれらの成果を査読付論文誌や国際学会を含む多くの学会で発表している。特に、第27回基礎有機化学討論会において本研究課題に関する発表が最優秀講演賞を授賞したことは特筆すべき事柄である。以上のように本研究課題では外部にも一定のインパクトを与える成果が得られていることから、「当初の計画以上の進展」があったと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後もノルコロールの二次元、三次元的な拡張とそれによる物性の変化について明らかにする。ベンゼン環以外の共役ユニットで二次元的に拡張したノルコロールを合成し、依然として未解明な点が多い反芳香族化合物の共役拡張の効果について明らかにしていく。また、さらなる周辺修飾方法の開発によって、無限に三次元積層したノルコロールを合成する。これによりノルコロールの導電性をさらに向上させ、反芳香族化合物を用いた有機半導体の開発を目指す。 これらの達成により、ノルコロールのみならず全般的な反芳香族化合物の物性制御の指針を示し、その応用研究の促進に貢献できると考える。
|