研究実績の概要 |
9,10-ビス(ピペリジル)アントラセンで見られた凝集誘起発光を理論・実験の両面から検討し、多環式芳香族に凝集誘起発光・粘度応答性蛍光を付与させる為の普遍的な分子設計指針を確立した。9,10-位に様々な電子供与・求引基、又は種々のジアルキルアミノ基を有するアントラセン誘導体を合成し、その構造―光物性相関を多角的に解析した。その結果、強くねじれたジアルキルアミノ基を多環式芳香族のパラ位へ導入することで、高速の内部変換が引き起こされ、これが凝集誘起発光の鍵となっていることを明らかとした。理論化学計算(協力:京都大学諸熊研究室)の結果、この置換基は多環式芳香族のS1/S0円錐交差を大きく安定化させていることが明らかとなった。そこで強くねじれたジアルキルアミノ基をパラ位に配置するという設計戦略をナフタレン系にも適用したところ、非常に劇的な凝集誘起発光・粘度応答性蛍光が見られた。 次に、上述の研究より得られた知見を高分子材料に応用した。まず、パラ位に強くねじれたジアルキルアミノ基を有する多環式芳香族のアルキル基末端を官能基化する合成化学的手法を開発した。そしてこれをN-イソプロピルアクリルアミドと共重合することで、32 oC付近で蛍光強度が著しく増大する温度センサーの開発に成功した。また上述の研究で得られた量子化学的知見を生かし、クロロホルム中でのみ非発光性となり高速で分解する、高蛍光性ナフタレン誘導体を開発した。これを架橋剤として用いることで、環境汚染物質である1,1,1-トリクロロメチル化合物存在下でのみ消光および光分解を示す高蛍光性ゲルの開発に成功した。 光触媒研究では、強くねじれたドナー・アクセプター構造を有するスピロビフルオレン類縁体が長寿命燐光の鍵となっていることを突き止めた。また時間分解ESR測定の結果、ππ*性の三重項が効率よく生成していることを明らかとした。
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