研究実績の概要 |
平成29年度においては、本研究の基本戦略である「分子・局所幾何構造の制御による光・電子機能発現」の更なる一般化を目指すことに注力した。昨年度提唱した、剛直な多環式芳香族に凝集誘起発光・粘度応答発光特性を付与する設計戦略については、その適用範囲をアセン系以外の化合物へと広げるため、隣接基効果に着目した。ピレンにおいて4,5-位は隣接し、どちらも立体障害としてパラ位の水素を有するため、強くねじれたN,N-ジアルキルアミノ基を隣り合うように配置することが可能である。そこで強くねじれたN,N-ジアルキルアミノ基を1-位、1,8-位、4-位、4,5-位にそれぞれ有する一連のピレン誘導体を合成し、溶液および固体中における蛍光特性を検討した。その結果、4,5-位に強くねじれたN,N-ジアルキルアミノ基を有するピレン誘導体のみが溶液系において著しく速い無輻射失活過程を示し、凝集状態ではこれが抑えられることで劇的な凝集誘起発光を示すようになることを明らかとした。さらにこのような隣接基効果を利用し、フェナントレンのようなパラ置換の難しい他の化合物にも凝集誘起発光をもたらすことに成功した。 また、幾何構造と局所的な電子状態の相関を利用して光・電子物性制御を行う本研究の基本概念を一般的な有機化合物のみならず多彩な系に適用するため、本年度はフランス共和国のInstitut des Materiaux Jean Rouxel との共同研究を行った。その結果、遷移金属カルコゲナイド化合物の局所幾何構造制御を可能とする新合成法の開発に成功した。
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