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2017 年度 実績報告書

リオタールの思想における言語と実践:精神分析との関わりを中心に

研究課題

研究課題/領域番号 16J10414
研究機関東京大学

研究代表者

大前 元伸  東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2016-04-22 – 2019-03-31
キーワードリオタール / 精神分析 / 言語 / マルクス
研究実績の概要

今年度は、リオタールの精神分析受容の内実を詳細に検討するべく、特に精神分析の影響が色濃くなる1970年代前半までの作品において、リオタールが精神分析を必要とした思想史的背景について研究を行った。その結果、次のことが明らかになった。
(1)リオタールの方法論と、マルクス主義理解の関連。Vega(2010)や、Pages(2011)等の先行研究なども踏まえ、次のように考えるに至った。(a)リオタールはマルクスの疎外概念を批判的契機と捉え、特に重視していた、(b)この疎外概念は、言語による非言語的なものの疎外という形で、リオタールの一貫した関心として捉え直すことができる。つまり、非言語的なものを現前させることが批判になるという、70年代以降の基本的な戦略を確立したと考えられる。(c)リオタールは『リビドー経済』以降、精神分析の理解が大きく変化するが、これはマルクス主義から明確に距離を取る時期と一致する。つまり、マルクス主義理解を、リオタールの精神分析理解の補助線として理解できると考えられる。
(2)リオタール最初の著作であり、マルクス主義の影響が強い『現象学』について、次のことが判明した。(a)リオタールはフッサールの試みが、知を根本的に基礎づけるものの探求であると規定した上で、その基礎は前述語的なものであり、現れたものの記述という方法を堅持する現象学には説明できないと批判した、(b)この限界を超えて前述語的なものを探求する可能性として、リオタールはメルロー=ポンティがラカンに言及していることに着目しており、現象学が言語化出来ないものを精神分析を用いて言語化する可能性を模索していたことが判明した。
以上の内容は、1960~70年代に生じる現象学からの離反と精神分析への接近が、リオタールの経歴の最初期に端を発していることを跡付けられる、という意味で重要であると言える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度の研究を通して、リオタールが精神分析を受容するに至った思想史的な背景について重要な進捗があった。一次文献の精読と先行研究の調査から、リオタールの重要な思想的バックグラウンドの一つであるマルクス主義が、彼の思索の一貫した関心である批判的な哲学の雛形となっていること、さらにはこの批判的な哲学の道具立てとして、精神分析がその都度解釈し直されつつ取り入れられている、という大きな方向性を考えられることが示された。また、こうしたマルクス主義と精神分析の交差というテーマが、リオタールの最初の著作である『現象学』の段階で既に見て取れるものであること、そのことが彼の批判的な現象学の読解から裏付けられることを明らかにした。こうした成果は、リオタールの思想を統一的に把握する本研究の試みにとって、大きな意味を持つと考えることができる。なお、リオタールの哲学に関する研究は、同時代の他の哲学者に比べていまだ進展していないことを踏まえ、今年度は、未公刊資料を閲覧するためパリのジャック・ドゥーセ図書館での資料調査を予定していた。しかし、既存の文献の精読を行った結果、未刊行資料に基づく新たな情報を利用して議論を補強するよりも、既存の文献の議論の位置づけをまずは整理すべきだと判明した。そのため、今年度の資料調査については行わないこととした。研究成果の発表は行わなかったものの、次年度以降の研究の方向性や基盤を固めることができたという意味で、今年度は十分に研究が進んだと言える。

今後の研究の推進方策

本研究は、文献の精読を基本的な方法としているので、今後も引き続き一次文献・二次文献の精読、整理を行う。最終年度となる次年度は、各著作における精神分析受容の特異性というリオタールの文献を中心とした視点と、その著作の背景にあると考えられる思想史的文脈を総合し、リオタールの哲学のあり方を一つの批判的な哲学の実践として提示することに力を注ぎたいと考えている。そのため、これまでと同様にリオタールが参照してきた各論者の思想を適宜参照しつつ、リオタールの思想を哲学史・思想史の中に位置づけるという観点を重視したいと考えている。特にこれまでの研究で、リオタールの前期の著作(1950~1970年代)に関する位置づけの整理は進めることが出来ている一方で、中期から後期(1970年代以降)、とりわけ主著と目される『文の抗争』(1984)における議論と、前期の著作との接続ないし断絶をどう捉えるかについては、いまだ課題として残っている。この点については、先行研究においても明示的に取り扱われることがほとんどなかったものである。そのため、これまで同様言語と精神分析に関する議論の変遷を辿るという方針を取りつつも、同時にそこから浮かび上がるリオタールの一貫した関心を正確に捉えるという作業を重点的に行いたい。最終的には、こうした成果を学会発表や論文投稿という形で部分的に成果を公表しつつ、最終的には博士論文という形でまとめられるよう、計画的に研究を進めていくことを目標とする。

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公開日: 2018-12-17  

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