研究課題/領域番号 |
16J10416
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小川 拓未 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ブラックホール / バイナリーブラックホール / ブラックホール形成 |
研究実績の概要 |
研究課題「超臨界降着による宇宙論的ブラックホール形成過程の解明」に向けて、今年度行ったことは連星をなしているブラックホールの周りの円盤とその周りに与える影響の調査である。 近年、重力波天体が次々に見つかりブラックホール同士あるいはブラックホールに限らないコンパクト天体同士の連星が存在し、明らかにそれが重力波を放出しながら合体しているということが確認された。コンパクト天体同士の連星系は合体前後の短い時間では数値相対論の文脈でよく計算されてきたが、重力波放出による角運動量の引き抜きの寄与が少ない遠方(1pc程度)の計算はあまりなされておらず、周りのガスの運動がどうなるのか、その天体はどのようなスペクトルで観測されるのかはあまり理解されていない。 そこで昨年度は、Fositeと呼ばれる流体計算コードを用いて連星ブラックホールの周りのガス円盤、特に超臨界降着をしているガス円盤のシミュレーションを行った。その結果、連星ブラックホールを囲むような周連星円盤、それに加えてそれぞれのブラックホールの周りに小さな降着円盤が出来ることが分かり、その特徴的な時間変動が周連星円盤の内縁でのケプラー角速度で決まっていることを突き止めた。さらに、超臨界降着円盤であるのでそれぞれのブラックホールの円盤からの輻射圧駆動型のアウトフローが期待できるため、アウトフローの運動を運動方程式を解く事により計算した。その結果、それぞれの降着円盤から噴出したアウトフローは連星の中間に衝撃波領域を作り、その領域からのX線放射が期待されるということも分かった。超臨界降着している連星ブラックホールは円盤からの放射に加え、衝撃波領域からの非常に硬いX線が観測されることが期待され、加えて周期変動も示すため、もしこのようなスペクトル、時間依存性が観測されればそれが超臨界降着している連星ブラックホールであるという根拠になると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は天文若手夏の学校というイベントの主催校でしばらくそちらにかかりきりになってしまったが、共同研究者の助力もあったお陰でそれなりの結果は残すことはできた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究には主に、(1)「単独ブラックホールへの超臨界降着」、(2)「連星ブラックホールへの超臨界降着」の2つのトピックがある。本年度は重点的に(1)に取り組む予定である。 (1)については、筑波大学の大須賀氏、国立天文台の高橋氏、川島氏と引き続き共同研究を行い、振動数依存型一般相対論的輻射流体コードの開発を目指す。このコードは流体の方程式に加えて光子Boltzmann方程式(光子分布関数(空間3次元、運動量空間3次元)の時間進化を解く方程式)を解く事を目指すコードである。現在の開発状況は、光子の分布関数を解く部分がほぼ完成し、重力赤方偏移や時空の曲がりによる光線の湾曲なども解けている。しかし、現在実装している方法ではガスと輻射の相互作用、特にコンプトン散乱の効果を解く際にはガスが高温の場合に収束条件が厳しくなるために別の方法を考える必要がある。現在は散乱問題を解く際にモンテカルロシミュレーションの結果を利用する方法を検証し、うまく行きそうなことが分かったため間もなく実装できる予定である。現在の計算機の性能では流体+光子分布関数を解くような大規模な計算を走らせることは非常に難しいため、本年度は単独ブラックホールの輻射磁気流体計算をこのコードとは別に行い、その結果を流体場としてBoltzmann方程式を解く本コードで計算し、超臨界降着BHがどのようなスペクトルで観測されるかということを調べる予定である。特にメインターゲットとなるのは超大光度X線源という天体で、この天体は超臨界降着天体とされているがそのスペクトル構造の起源は未だに謎が多いため、それに関する制限をつけることができると睨んでいる。
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