本研究では、活性型がん遺伝子BRAFによるIntegrated Stress Response (ISR) 制御機構を明らかにすることで、代謝ストレス適応応答を標的とした新しいがん治療戦略の分子基盤を築くことを目指した。ISRは多様なストレスに対し活性化し、転写因子ATF4がストレス適応に働く分子の転写を促進する。我々は、BRAF阻害剤であるvemurafenibがアミノ酸飢餓を感知するGCN2を介してISRを活性化させることを見出した。さらに、ATF4のノックダウンはvemurafenibの細胞増殖阻害効果を増強したことから、ISRの活性化はvemurafenibの作用に対して細胞防御に働くことが示された。一方で、vemurafenibを24時間処理するとATF4発現はかえって抑制され、BRAFをノックダウンした場合も同様にATF4発現が抑制された。このことから、vemurafenibはATF4発現に対し、処理時間によって二相性の作用を有することが示唆された。 次に、キナーゼ阻害剤ライブラリー用いてvemurafenibによるATF4発現誘導を抑制する阻害剤のスクリーニングを行った。その結果、他のストレッサー処理によるATF4発現には影響を与えず、vemurafenib処理によるATF4発現誘導のみを選択的に阻害する阻害剤Aを見出した。遺伝子発現解析より、阻害剤Aはvemurafenibで誘導される細胞内のアミノ酸代謝の恒常性を維持するための応答を抑制することが示唆された。それに加えて、vemurafenibと阻害剤Aの共処理は、それぞれの単独処理に比べて相乗的にアポトーシスを誘導することで、強い細胞増殖阻害効果を示した。以上の結果より、vemurafenibと阻害剤Aの併用療法はストレス適応応答の抑制によって合成致死に導く新しいがん治療法として期待できる。
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