研究課題/領域番号 |
16J10476
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
横山 尊 福岡大学, 人文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 禁酒運動 / 日本国民禁酒同盟 / 地域社会 / 職域社会 |
研究実績の概要 |
2018年3月に、 “On Eugenic Policy and the Movement of the National Temperance League in Prewar Japan” (Historia Scientiarum Vol.28 No.3)を発表した。日本禁酒同盟資料館史料から、昭和戦前期の日本国民禁酒同盟と優生学運動の関わりを論じた。同同盟媒体、婦人部や医師禁酒会、地方禁酒会への優生学の影響、同同盟の厚生省への禁酒政策への提言、国民優生法審議における禁酒同盟の影響、その後の禁酒同盟と優生政策担当者の関係の深まりを明らかにした。これら同同盟の禁酒啓蒙や教育のあり方から、アルコール問題の厚生行政や社会福祉への包摂、今日の酒害の宣伝への影響を見通した。 「山本作兵衛と日鉄二瀬禁酒聯盟」(『エネルギー史研究』33号、2018年3月)では、福岡県出身の炭坑労働者、炭鉱記録画家、山本作兵衛と彼が1934年2月から所属した日鉄二瀬禁酒聯盟(33年10月発足)の関係を論じた。福岡県では20年代から30年代にかけて多くの炭坑禁酒会が組織され、禁酒宣伝、講演会、禁酒貯金、採炭能率向上などを訴え、多くの会員を獲得した。日鉄二瀬禁酒聯盟は三井田川に次ぐ規模の炭坑禁酒会として敗戦期まで活動した。その実態を、日本禁酒同盟資料館史料を駆使して解明した。一方、山本作兵衛の日記を通して彼の入会、禁酒活動も解明した。ただし作兵衛は二年程度で会から遠ざかるなど模範的な禁酒会員ではなく、それらを通して炭鉱禁酒会の流動的性格を示唆した。 これら以外には、研究会報告として、福博企業家史研究会で「福岡県の炭鉱禁酒会―三井田川禁酒会を中心に」という口頭発表も2017年10月に行った。上記の報告には、進行中の『禁酒運動』、『禁酒之日本』の目次データベースの情報が極めて有用であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、 “On Eugenic Policy and the Movement of the National Temperance League in Prewar Japan” (Historia Scientiarum Vol.28 No.3)、「山本作兵衛と日鉄二瀬禁酒聯盟」(『エネルギー史研究』33号、2018年3月)などの研究業績が発表できた。「福岡県の炭鉱禁酒会―三井田川禁酒会を中心に」など研究発表も行った。 来年度以降の準備作業も順調に進んでいる。2018年3月に東京の三井文庫で史料調査を実施した。炭鉱禁酒会の背景にある三井鉱業の労務管理のあり方を調べるためである。来年度以降の論文、研究発表につなげられるだろう。また、禁酒運動と優生学、産業と双方の接点を有するものとして、産業衛生と禁酒の関係についても研究を進めている。現在、2018年5月に「アルコール医学と地域産業社会―九州帝大医学部教授、大平得三の禁酒運動から」を日本科学史学会総会で報告する準備を進めている。 また、昨年度は、農村における禁酒運動の展開を解明する作業にも取り組み始めた。2018年5月は社会事業史学会大会で「禁酒運動と農村対策―1930年代後半の東北地方への運動と背景」という研究報告を行う予定であり、その準備のため、2018年2月の京都で史料調査を同志社大学などで実施した。 今年度の業績に加え、来年度以降の業績発表の準備も進んでいることから、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年5月に「アルコール医学と地域産業社会―九州帝大医学部教授、大平得三の禁酒運動から」を日本科学史学会総会で報告する準備を進めている。2018年5月は社会事業史学会大会で「禁酒運動と農村対策―1930年代後半の東北地方への運動と背景」という研究報告を行うことになっている。これらの準備を行い、同時にそれぞれの内容の論文化を進めていく。また、『禁酒新聞』、『禁酒之日本』の目次のデータベース化も進めていく。また、これらの媒体のメディア史、メディア論的分析の可能性についても模索したい。 来年度から新しく進める研究には次のものがある。昨年度から禁酒運動の軍隊への影響について、分析を進めたかったが、農村における禁酒運動の研究と優先順位が入れ替わったため、十分に取り組めなかった。そのため、その研究を行う。まず日本禁酒同盟資料館で収集済みの『禁酒新聞』や『禁酒之日本』の該当箇所の読解を進める。特に、同盟理事なども務めた陸軍軍人の井上一次の動向は重要であると思われる。その上で、防衛省研究所、国会図書館で情報の補充を行いたい。さらに、都城市立図書館の上原勇作文庫は軍事関係の雑誌資料の所蔵が豊富であり、その活用を図りたい。さらに、アルコール中毒者収容施設の構想と戦後における展開の分析も着手したい。その際、拙稿“On Eugenic Policy and the Movement of the National Temperance League in Prewar Japan” (Historia Scientiarum Vol.28 No.3)の知見も参考になるはずである。
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