研究課題/領域番号 |
16J10483
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
北奥 喜仁 近畿大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | Lysin motif / chitinase / NMR / X-ray crystallography |
研究実績の概要 |
本研究では、植物微生物間の相互作用の場において機能する酵素がもつLysM型糖質結合モジュール(以下、LysMとする。)の構造と機能の関連を調べることを目的としている。今年度の研究対象として、スギナ(Equisetum arvense)由来のものと緑藻であるボルボックス(Volvox carteri)由来のものを使用した。 スギナ由来のLysMとキチンオリゴ糖の結合様式について詳しく調べるため、LysMにキチンオリゴ糖が結合した、複合体の構造を決定することとした。しかし、LysMの結晶をキチンオリゴ糖の溶液に浸漬した際に、結晶の溶解が認められた。これは、キチンとの相互作用部位が結晶構造の安定化に寄与しているためであると考えられた。そこで、LysM単独ではなく、大腸菌由来のチオレドキシンをLysMに融合させたタンパク質を調製し、キチンオリゴ糖存在下での結晶化を試みたところ、X線回折実験に十分な大きさの結晶を得ることができた。今後はこの結晶を用いて構造解析を行う予定である。 ボルボックス由来のLysMの構造とキチン結合様式を調べるため、核磁気共鳴(NMR)法を用いて実験を行った。NMRシグナルの観測のために、安定同位体でラベル化したLysMを調製し、構成原子核のラジオ波に対する共鳴周波数(化学シフト)のスペクトルを測定した。原子核間の空間的近接度合いを反映するNOEシグナルの強度から求めた水素原子間の距離情報と、化学シフト値から求めたペプチド結合の二面角情報およびタンパク質中の水素原子の重水素原子交換実験を通した水素結合位置の情報から、構造計算用ソフトであるCYANAを用いたディスタンスジオメトリー法による、構造計算を行った。結果として、ボルボックス由来のLysMドメインの構造を決定した。同手法により、キチンオリゴ糖結合部位を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スギナ由来のキチナーゼがもつLysM型糖質結合モジュールとキチンオリゴ糖の共結晶を得ることができた。分子量が小さいLysMドメイン単体では、キチンオリゴ糖の結合部位が、表面積に占める割合が大きく、複合体の構造を得ることが困難であると考えられていたが、融合タンパク質のまま結晶化することで結晶が得られたのは、今後分子量の小さいタンパク質でリガンドとの複合体構造を得る上での戦略として使えるものと考えられた。これは当初予定していたよりも良い結果であり、今後の研究の進行にも良い影響をもたらすものと考えられた。 ボルボックス由来のLysM型糖質結合モジュールの構造を、NMRと構造計算により決定することができ、また、相互作用部位を同定することができたため、予定していた以上の結果が得られたものと考える。 一方で、計画段階で予定していた、細菌細胞壁などの不溶性のリガンドとの結合実験は、固-液相の界面での反応となるため、定量が難しく、結果を得ることができなかった。そのため、一概に1の当初の計画以上に進んでいるとは判断し難く、2のおおむね順調に進展しているという判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、構造生物学的視点から、LysM型糖質結合モジュールが植物-微生物間相互作用において担う働きについて理解を深めることであったが、当初の予定では、植物由来のタンパク質を用い、微生物の細胞壁成分をリガンドとして実験を行うこととしており、微生物がもつLysM型糖質結合モジュールからの視点が不十分であったと考える。そのため、微生物由来のLysM型糖質結合モジュールにも注目し、植物由来のものと比較することで、植物がもつLysM型糖質結合モジュールの特性を浮き彫りにすることができるのではないかと考えた。そのため、前年度で身につけた構造解析の手法を生かし、真菌由来のLysM型糖質結合モジュールの機能について、構造生物学的な視点から、研究を進めていきたいと考えている。 また、LysM型糖質結合モジュールは、一般的に他のモジュール構造と繋がった形で存在していることから、複数のモジュールからなるマルチモジュラーなタンパク質の性質を調べていきたいと考えている。マルチモジュラーな構造は、多くのタンパク質で見出される性質であるにも関わらず、その挙動の複雑さから、その性質をマルチモジュラーな形で調べることは困難である。そのような点についても、なんらかの打開策が得られることを期待し、分子の動的な挙動を捉えることができる、核磁気共鳴(NMR)法を用いた実験に焦点を当て、今後の研究を進めていきたいと考えている。
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