研究課題/領域番号 |
16J10488
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
京野 秀紀 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 可積分変形 / カオス / AdS/CFT対応 / dilaton重力 / Wittenダイアグラム |
研究実績の概要 |
今年度は、弦理論の可積分変形、カオス、CFTにおける共形ブロックの重力双対など幅広い分野について研究を行った。 可積分変形の研究では、Yang-Baxter 変形と呼ばれる手法を用いてAdS_5×S^5上の弦理論の作用を変形し、いくつかの具体的な例に対して変形された背景場を読み取ることに成功した。あるクラスの変形からは、従来、弦理論の背景として考えられてきた超重力理論の解にならないものが得られることも示された。 カオスに関する研究では、Melnikov関数と呼ばれる手法を用いてある背景上の弦理論の振る舞いを調べた。この手法によって弦の古典的な振る舞いがカオス的であることを解析的に示すことができた。またいくつかの簡単なカオス系において伏見関数を用いてLyapunov指数を計算し、古典的な振る舞いとの比較を行った。完全にカオス的な系では両者から計算されるLyapunov 指数がある程度一致することが示された。この解析によって量子カオスにアプローチできることが期待される。 また我々は、近年holographyを調べるtoy model として注目されている低次元のdilaton重力理論に着目し研究を行った。上記の可積分変形の手法を用いて、この理論を変形し、その系の性質について考察した。変形後の理論においても計量とdilatonについて厳密解を求め、black hole解も構成した。また、適切なcounter-termを用いてblack hole entropyをboundaryの計算から再導出することも成功した。 年度末にかけては、CFTの共形ブロックの重力双対である、測地線的Wittenダイアグラムの研究も行った。我々はこのダイアグラムをspinを持った場がある場合へと拡張し、通常のWittenダイアグラムと測地線的Wittenダイアグラムの関係を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定よりも幅広い分野に関して研究を行い、結果を残すことができた。可積分変形の研究は、近年の弦理論の枠組みの拡張を試みる研究(Double Field Theory, Generalized supergravityなど)にも繋がる重要な結果であったと言える。カオスに関する研究ではMelnikov関数を使った解析的な手法を習得した。この手法の他の系への応用も期待される。測地線的Wittenダイアグラムの研究では、CFTの共形ブロックとの関係が、spinを持ったあるクラスの場を交換するダイアグラムの場合に拡張しても成り立つことを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度カオスの研究において伏見関数を使った解析手法に注目し、古典的に計算したLyapunov指数との比較を行ったが、この結果についてはその物理的解釈などまだ解明できていない部分がある。来年度も引き続き議論を続け、この結果に論理的に解釈を与えたい。 低次元のdilaton重力理論の研究については、holographicにブラックホールエントロピーを計算する際、時空のsingularityの直前をこの時空のboundaryとみなしcounter-termをおいたが、その物理的意味はあまりよくわかっていない。我々はこの系のさらなる解析を行いたいと考えている。またこの低次元のtoy modelのholographic双対はカオス的な振る舞いを持つと言われており、我々はholographyを通じたカオスの解析にも繋がると期待している。
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