研究課題
本研究は、慢性的な運動が、神経可塑性関連遺伝子の発現制御を介し、マウス海馬の神経・シナプス形態に作用することで、脳機能改善の一端を担う可能性を解明することを目的としている。今年度は、若年マウスに対する運動介入実験ならびに、若年マウスと高齢マウスを比較する加齢実験を実施し、生化学解析を継続するとともに、組織学解析に着手した。8週間の慢性走運動により、最初期遺伝子および栄養因子、シナプス分子の発現変動が観察された。一方、1週間の慢性走運動では、シナプス分子の発現変化は観察されなかったが、最初期遺伝子および栄養因子は、全体としてより顕著に増加していた。従って、慢性的な自発性走運動は、最初期遺伝子および栄養因子の発現を亢進させ、その応答が蓄積するとともに、シナプス分子の応答を惹起して、神経・シナプスの形態を変化させている可能性が示唆される。加齢実験では、行動解析としてY迷路、バーンズ迷路、高架式十字迷路、オープンフィールド試験を実施したところ、高齢マウスにおいて、短期・長期記憶能力の低下ならびに不安様行動の増大が観察された。記憶能力および不安様行動は海馬のシナプス分子との関連が示唆されていることから、シナプス分子の発現量を検討したところ、複数のシナプス分子が有意に減少していることが観察された。以上より、加齢は、記憶障害と不安様行動とともに、海馬のシナプス分子の部分的な減少を惹起することが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通り、若年マウスに対する運動介入実験ならびに、若年マウスと高齢マウスを比較する加齢実験を実施し、海馬の生化学解析を継続するとともに、組織学解析に着手した。生化学的解析では、慢性運動により複数のシナプス分子の発現量が増加し、加齢マウスではシナプス分子が減少しているとの知見を得ている。また組織学解析による海馬シナプス分子の観察においても、生化学解析の結果と部分的に一致した結果を得ている。以上より研究が順調に進展していると判断した。
来年度は、行動解析(Y迷路、バーンズ迷路、高架式十字迷路、オープンフィールド試験)により慢性走運動が若年・高齢マウスの記憶能力・不安様行動におよぼす影響を検討するとともに、生化学解析ならびに組織学解析を実施する。生化学解析では、シナプス分子およびその関連分子のタンパク質発現量を包括的に検討する。組織学解析では、蛍光免疫染色によるシナプス分子の海馬各領域での発現量の変化を明らかとするとともに、ゴルジ染色による海馬の神経形態への影響を検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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