研究課題/領域番号 |
16J10586
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
速水 雅生 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 相対論的量子化学 / NMR化学シフト計算理論 / 拡張RI法 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、重原子を含んだ化合物に対して相対論的量子化学に基づいた高精度かつ実用的なNMR化学シフト計算手法の開発と量子化学的見地に基づいた予測法の創出である。この課題を実現するためには第一に高精度な計算理論の開発が不可欠となる。しかし、相対論的量子化学に基づく理論は実数で取り扱う非相対論と異なり、複素数の演算が必要となるため、一般的な汎用量子化学計算パッケージの拡張は不可能である。本年度は、相対論的NMR化学シフト計算のために入力から計算、出力まで一貫したプログラム基盤の構築を行った。具体的には、最も簡便な取り扱いである共通ゲージ原点(CGO)を利用した手法に基づき、最も高精度な2成分相対論法の一つである無限次Douglas-Kroll-Hess(IODKH)法による核磁気遮蔽定数計算理論の導出と実装を行った。続いて、今回構築したプログラムを利用してIODKH法の高精度化と効率化に取り組んだ。具体的には、IODKH法では理論的な要因から常磁性項を大幅に過小評価するという問題点があり、この問題を回避する手段の一つとして基底関数のサイズを大きくする。しかし、この方法では計算コストが莫大になり、実用性に欠ける。この問題を解決するため、拡張Resolution of Identity(RI)法を開発した。この手法を用いることで大きな基底関数を用いずに用いた場合と同程度の精度を保持したまま、計算時間を50%以上削減することに成功した。続いて、磁気物性計算で問題となるゲージ原点の任意性による計算精度の低下を解消するため、ゲージ依存原子軌道(GIAO)を新たに再定式化し、それを取り入れた相対論的計算手法の開発に取り組んだ。この再定式化によりゲージ原点依存性が改善され、高精度な計算が可能になった。さらに、来年度へ向けてNMR化学シフトに関する既存の予測システムの調査・検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、高精度かつ実用的なNMR化学シフト計算の実現するため、相対論的量子化学に基づく計算手法の開発を計画した。そこで、最も高精度な相対論的量子化学である無限次Douglas-Kroll-Hess法をベースとして、理論開発を進めてきた。始めに、最も簡便なゲージ原点の取り扱いである共通ゲージ原点(CGO)を利用し、IODKH法による磁気物性計算手法の実装とその検証を行った。この際、IODKH法の問題点として、s軌道からの寄与を過小評価してしまう問題が確認された。この問題を現時点での最優先事項として研究計画から一度離れ、解決策の模索と新たな手法として拡張RI法の開発に取り組んだ。また、研究計画の段階では非相対論法におけるゲージ原点取り扱い手法を相対論的量子化学にも適用可能と考えられていた。しかし、他研究グループによってゲージ依存性が取り除けないことが発見された。そこで、続くステップにおいて、ゲージ原点の取り扱いをより高精度にするべくIODKH法に適した手法の検討を行った。この解決策として非相対論的手法であるGIAO法を因数分解により変形した立式をIODKH法に適用することで、ゲージ依存性の除去を図った。この理論によりゲージ依存性が小さくなったが、依然として高精度な計算を実現するには至らなかった。そこで別の定式化によるゲージ依存性除去手法の考案とその実装に取り組んでいる。このように計画当初には予期しない問題が生じたためその解決に取り組み、高精度な相対論的NMR化学シフト計算理論の開発・実装を進めてきた。
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今後の研究の推進方策 |
信頼性の高いNMR化学シフト計算を行うためには、高精度な相対論的量子化学計算手法の確立は必須である。次年度では相対論的量子化学に適したゲージ依存性の除去手法の開発を第一の課題とする。そのために非相対論的手法であるGIAO法を変形することで相対論的量子化学に適用可能な新たな表式を定義し、計算手法の確立を目指す。この理論と同時に、最も簡便な手法である共通ゲージ原点に基づくIODKH法を利用し、磁気物性における相対論効果の局所性の調査を実施し、効率的な計算スキームの構築を行う。また、ゲージ依存性が除去された計算理論をスムーズに接合できるような枠組みで設計を行い、重原子を含む大規模分子の計算が可能な理論へと発展させる。第二の課題は、NMR化学シフトの支配因子の解明である。第一段階として、機械学習による解析システムの設計に着手する。はじめは、汎用量子化学計算パッケージを用いて非相対論的NMR化学シフトのデータベースを作成し、解析システムを稼働する。第2段階として、相対論的量子化学計算理論を用いたデータベースの構築を行い、非相対論的手法に向けて構築された解析システムをカスタマイズする形で支配因子を探る。
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