研究実績の概要 |
枯草菌はその細胞膜に糖転移酵素UgtPによって合成される3種類の糖脂質, モノグルコシルジアシルグリセロール, ジグルコシルジアシルグリセロール, トリグルコシルジアシルグリセロール, を持っている。ugtP遺伝子を破壊し糖脂質を欠損させた細胞では細胞外ストレス応答因子であるExtraCytoplasimic Function (ECF)シグマ因子(SigM, SigV, SigX)が恒常的に活性化している。ECFシグマ因子は普段, 膜タンパク質であるアンチシグマによって捕縛され活性が抑制されている。 SigVは細胞壁分解酵素であるリゾチームに応答し, その活性化機構はSigVの特異的アンチシグマRsiVがRIP経路と呼ばれる多段階のプロテアーゼカスケードによって分解されるというものである。しかしRIPプロテアーゼの1つであるRasPを欠損していても, SigVは糖脂質欠損に応答し活性化した。また, 糖脂質欠損株ではRsiVレベルに変化はなく分解は起きていなかった。一方で, あらかじめRsiVを欠損させておくとSigV活性に糖脂質欠損の影響は見られなくなった。これらの結果は, 糖脂質欠損によるSigVの活性化機構はRsiVの分解とは異なる機構によることを示している。 さらに, RsiVの細胞外ドメインを糖脂質欠損には応答しないRsiWの細胞外ドメインと交換したキメラタンパク質を用いた解析から, RsiVの細胞外ドメインが糖脂質欠損の感知に必要であることが明らかになった。 この結果より, 糖脂質欠損によるSigVの活性化機構は, RsiVの細胞ドメインから始まる立体構造変化である可能性が示唆された。 また, 異種細菌由来の糖脂質合成酵素遺伝子を用いた解析から, アンチシグマの機能に必要な糖脂質分子種がモノグルコシルジアシルグリセロールであることを特定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖脂質欠損によるSigVの活性化が, RIP経路とは別のメカニズムであることを, RasPとUgtPの2重欠損株におけるSigV活性の解析および アンチシグマRsiVの動態解析から明らかにすることができた。 さらに, RsiVの細胞外ドメインを糖脂質欠損には応答しないRsiWの細胞外ドメインと交換したキメラタンパク質を用いた解析により, 糖脂質欠損をRsiVの細胞外ドメインが感知することを示すことができた。一方で, RsiWの細胞内ドメインを持ったキメラをRsiW欠損株において発現させたところ, アンチSigWとして機能しなかったため, キメラタンパク質発現コンストラクトを変更する必要があると判断し, 再構築した。 また, ナノディスク形成に必要な骨格タンパク質MSPを大腸菌で発現させ, 精製した。
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