研究課題/領域番号 |
16J10635
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
安達 眞聡 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 静電気力 / 粉体ハンドリング / 月レゴリス / 個別要素法 |
研究実績の概要 |
将来の宇宙探査ミッションを成功させるためには,月・火星・小惑星表面に存在するレゴリス粒子の探査機器への悪影響を軽減し,また,その粒子を資源として利用することが重要であり,その鍵となるのが宇宙環境下で不具合なく利用できる粉体のハンドリング技術である.本研究では,機械的駆動部や空気・液体等を必要とせず,装置が簡素化でき,しかも制御が簡単であるなどと,宇宙環境で使用するにあたり多くの利点を有している静電気力を利用した粉体のハンドリング技術を開発した. 静電気力を利用したシステムは, 地上環境下においてサブミクロンから数100μmスケールの粒子の運動を操作するのに使用されている.粒子に加わる外力はそのサイズに大きく影響を受け,静電気力はこれらのサイズにおいて地上で支配的となるからである.粒子運動を操作するうえで重要な外力のバランスは,地上に関しては十分な研究がなされているものの,低重力・真空といった宇宙特有の環境下においては詳細な研究は行われていない.そこで本研究では,実際に宇宙環境に存在する粒子の物性を取得し,それを用いて粒子に加わる宇宙環境下での外力のバランスを理論式により計算した.その計算結果を基に,月レゴリスに含まれている酸素・水素・金属を抽出して,それを長期宇宙探査活動時に利用するために,それらの成分を多く含む10μm程度の小粒径粒子を効率的に取り出すための静電分級システムを開発した.開発したシステムを,地上における実験だけでなく,真空環境下でのデモンストレーションや個別要素法(DEM)を使用した数値シミュレーションにより開発・性能評価を行った.その結果,大気下における実験では不可能であった,粒子の飛翔高さの違いを利用した分級が宇宙の真空環境下において可能であることを確認し,小粒径の粒子に働く空気抵抗の影響と,真空環境でのそのダイナミクスを明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,宇宙環境上での電磁粒体の力学に関する学理を構築し,これを活用して,月・火星・小惑星表面上に存在するレゴリスの操作技術を確立することを目的としている.本年度は,静電気力を利用した月レゴリス分級システムの開発に着手し,真空の影響が粉体ダイナミクスに及ぼす影響について調査した. 本システム開発について,当初の予定通り,【1】大気圧下における装置開発・実験,【2】真空環境下における実験,【3】個別要素法を活用した粉体シミュレーションの開発,【4】宇宙環境上における本システムの性能確認,について実施することができた.大気中では不可能であった粒子の飛翔高さの違いを利用した静電分別が真空かつ1-G環境下で可能であることをJAXAとの共同実験により確認し,20μm 以下の小粒径粒子が効率的に回収できることを実証した.この結果から,当初の目的である,小粒径の粒子に働く空気抵抗の影響と真空環境でのそのダイナミクスを明らかにすることができた.また,数値シミュレーションにより,真空かつ1/6-Gの月面環境下では,低重力により粒子の飛翔高さの違いが地上よりも顕著に現れるため,さらに小粒径である10μm 以下の粒子が効率的に回収できることを予測し,その性能が地上よりも向上することを明らかにした.本システムは宇宙環境と相性が良く,その性能も月面環境下では向上することから,将来の月探査ミッションにおいて利用することが期待できる.また,宇宙環境上での装置性能を確認するに留まらず,真空・低重力という環境を考慮した装置の改良にも取り組み,月面環境上に適した使用条件も明らかにするなどと,期待以上の研究進展を達成することが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果として,静電気力を利用した粉体のハンドリング技術を開発・評価し,その理論計算の結果と比較することで,宇宙環境下での静電場における粉体ダイナミクスの基礎理論を構築するに至った.静電気力だけでなく,磁気力を利用した粉体ハンドリング技術も、機械的駆動部や空気・液体等を必要としないため,宇宙環境下で利用することに期待が出来る.しかし,磁性粒子に対しても,低重力・真空といった宇宙特有の環境が粉体ダイナミクスに及ぼす影響は明らかにされていない.そこで来年度は,磁気力を利用したシステムとして,小惑星表面からレゴリス粒子を採集するための磁気サンプラー開発に取り組む. 宇宙環境を再現した実験は取り扱いが難しく,コスト・時間の観点から複数回実施することは現実的ではないが,本年度の研究手法である地上実験・真空環境下での実証実験・個別要素法(DEM)を使用した数値シミュレーションを,相互的・連続的に実施することで研究が効率的に進められることを確認したため,来年度も同様の研究手法を取り入れることとする.具体的には,【1】大気圧下における装置開発・実験,【2】真空環境下における実験,【3】磁気力を考慮した個別要素法シミュレーションの修正,【4】宇宙環境上における本システムの性能確認を実施する.真空実験の準備や個別要素法シミュレーションの開発は本年度に培った知見を利用することが出来る.また,磁気力の利用に関しては,小惑星環境下(真空かつ微小重力)だけでなく,月面環境下(真空かつ1/6-G)や火星環境下(低真空かつ1/3-G)での利用も期待できるため,各環境下での装置性能確認および装置最適化にも取り組みながら,宇宙環境下での静磁場における粉体ダイナミクスの基礎理論構築を目指す.
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