将来の宇宙探査ミッションを成功させるためには,月・火星・小惑星表面に存在するレゴリス粒子の探査機器への悪影響を軽減し,また,その粒子を資源として利用することが重要であり,その鍵となるのが宇宙環境下で不具合なく利用できる粉体のハンドリング技術である.本年度の研究では,機械的駆動部や空気・液体等を必要とせず,装置が簡素化でき,しかも制御が簡単であるなどと,宇宙環境で使用するにあたり多くの利点を有している磁気力を利用した粉体のハンドリング技術開発に取り組んだ.また,粒子運動を操作するうえで重要な外力のバランスは,地上に関しては十分な研究がなされているものの,低重力・真空といった宇宙特有の環境下においては詳細な研究は行われていない.そこで,開発したシステムを,地上における実験だけでなく,真空環境下での実験や個別要素法を使用した数値シミュレーションにより開発・性能評価を行うことで,宇宙環境下における磁性粒子の動特性解明にも取り組んだ. 具体的には,月・火星・小惑星レゴリス粒子を回収するための,コイルガンの仕組みを利用した磁気サンプリングシステムを開発した.磁気サンプリングシステムを使用して,大気・真空環境下において磁性粒子のサンプリング実験を行った結果,コイルに流す電流値とその印加時間が相互的にサンプリング性能に影響を及ぼし,それらの最適な組み合わせがサンプリングを成功させるために重要であることを確認した.また,磁場中に置かれた磁性粒子の磁気的相互作用により粒子同士のチェーンや塊を形成し,その現象はサンプリング性能を向上させることも明らかにした.さらに,数値シミュレーションにより,低重力かつ真空環境下において磁気サンプラーの性能が向上することを予測し,その宇宙環境下における有用性を確認した.
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