研究課題
本研究では、高分光特性を有するγ線(100-1000 keV)用超伝導転移端センサ(TES)アレイを実現するため、マイクロ波読出し方式によるTES信号多重化回路の開発を行っている。マイクロ波読出は、SQUID(TES電流の関数となる可変インダクタンス)で終端した超伝導共振器を利用し、TESの電流変化を共振器の共振周波数の変化として読出す周波数多重化方式であり、従来型のTES信号多重化方式よりも多数のTES素子を多重化できるという特徴をもつ。本年度は、信号多重化のうえで基礎となる超伝導共振器の性能評価を、電極材料・基板材料の異なる4種類において行った。その結果、サファイア基板上のNbNが共振器の性能パラメータとなる無負荷Q値が最も高く(10^5-10^6)、TESの低雑音読出しに期待が持てる結果を得た。また、一般的に超伝導共振器を極低温で使用する際に生じる二準位系雑音の問題が、我々の系ではマイクロ波パワーを最適かすることでその影響を低減できるという知見を得た。ただし、今回測定したチップは共振器のみであり、をSQUIDで終端されていない。SQUIDを作りこんだ共振器では全種類、上記のものより一桁ほどQ値が低かった。このQ値低下の原因解明・対策の考案は来年度の課題となる。また、マイクロ波読出しに必要な同軸ケーブル、マイクロ波部品を冷凍機内に設置し、実験体系の構築を行った。そして、初めてTES信号多化のためのマイクロ波読出し回路と単素子TESを協調動作させCo-57のγ線信号取得に成功した。得られた信号は、従来型の単素子読出時と同じ立上がり・立下り時定数をもち、マイクロ波読出しによる波形の顕著な歪等はないことが分かった。ただし、ノイズレベルは従来型単素子読出し時に劣るため、今後原因究明・対策を行い、マイクロ波読出し時のエネルギー分解能等の詳細な評価を進めていいきたい。
3: やや遅れている
本年度の計画のひとつに掲げていたTES単素子でエネルギー分解能向上は、デバイス作製に必要不可欠ななスパッタ装置の故障があり、思うように進展しなかった。この点に関しては、来年度に追い上げを図りたい。また、マイクロ波読出に必要な信号多重化に関しては、計画通り計測に必要なマイクロ波部品を購入し、希釈冷凍機内に実験環境の構築ができた。また、単素子ではあるがマイクロ波読出しによるTES信号の取得に成功し、来年度複数素子の読出しを進めていくうえで一定の目途をたてることができた。
現在マイクロ波読出しでは、従来型の単素子読出しよりも読出し雑音が大きい。共振器の性能が素子製作により劣化していることが原因と考えているが、どのプロセスでそのような劣化が起こっているのかは不明であるので、今後明らかにし低雑音読出を実現したい。また、複数素子での読出の実証、マイクロ波読出し時のエネルギー分解能の評価、クロストークの評価等を進めていきたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
IEEE Transactions on Applied Superconductivity
巻: 27 ページ: 印刷中
10.1109/TASC.2016.2637865