研究課題/領域番号 |
16J10715
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
弘澤 萌 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 選択的ゲノム編集 / miRNAによるCas9活性制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、1. 細胞種特異的に発現するmicroRNA(miRNA)によるCRISPR/Cas9 systemの制御、2. CRISPR/Cas9 systemを利用したエピゲノムの多因子制御法の確立を目指している。当該年度は、1を優先的に行なった。以降その実績について記述する。 当初はガイド鎖を介したCRISPR/Cas9 systemの制御を試みたが、競争が激しい分野であることも考慮して当該研究室で開発されたmiRNA switch(miRNAによりタンパク質の発現が抑制される人工mRNA)を利用した制御法も検討した。miRNA switchを利用した方法によりCas9活性をmiRNAにより制御できる可能性が示唆されたため、miRNA switchを利用するCRISPR/Cas9 systemの構築を優先的に進めた。EGFP遺伝子を安定発現しているHeLa細胞とiPS細胞を用いてCas9活性を評価した。 結果は、それぞれの細胞で特異的に発現している内在性のmiRNA(HeLa細胞はmiR-21、iPS細胞はmiR-302a)によりCas9活性を制御(ここでは活性の低下を誘導)することに成功した。また、miR-302aを標的とすることで、iPSとHeLaの共培養の条件においてHeLa細胞特異的にEGFPをノックアウトすることに成功した。Cell-classifier circuitを利用し、Cas9活性の制御を逆転(miRNA によりCas9活性の上昇を誘導)することにも成功した。 HeLaとiPSの共培養条件下での結果は、ヘテロな細胞集団より標的細胞のみを選択的にゲノム編集できることを示唆し、ゲノム編集を用いた遺伝子治療に有益になると考えられる。また、Cas9活性をmiRNA存在時に上昇させるのに成功したことは、所望の細胞でのゲノム編集を簡便化することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定とは異なるが、miRNA switchを用いることでCRISPR/Cas9 system(Cas9活性)を内在性のmiRNAにより制御することに成功した。この事実は、上記項目で述べた研究目的1をほぼ達成したことを示している。そこで現在は、当初の予定であるガイド鎖を介したCRISPR/Cas9 systemの制御を試みている。具体的には、ガイド鎖の塩基配列を変更できると示唆されている領域を基準とした簡易的スクリーニングを行っている。プレリミナリーな結果ではあるが、Cas9活性は落ちるものの活性を保つことが可能である領域を確認した。今後、この変異に対して寛容なガイド鎖が実際にmiRNAに応答することができるかの検証が必要である。懸念事項として、ガイド鎖を改変し外在性のシグナル(タンパク質やアンチセンスオリゴ)によりCRISPRa(CRISPR/Cas9 systemを用い遺伝子を活性化する手法)の制御に成功した報告がなされたことがある。 エピゲノム制御法を確立するために、まず、dCas9(Cas9のヌクレアーゼ活性を欠損させた変異体)による転写制御系が当該研究室でも可能かを検証した。dCas9にVP64 (転写活性化因子)を融合させたコンストラクトでの検証実験では、標的とした遺伝子の転写活性化は見られなかった。原因として、1. 評価系に問題があった、2. VP64では活性化能が低いため遺伝子の活性化が見えなかった、可能性が考えられる。そのため現段階は再検証を実施している段階である。当該年度において、他の研究グループによりエピジェネティックな制御に成功したとの報告が複数なされた。そのためこちらの研究も早急に進めていく必要性があると考えている。 以上のことを考慮し、進捗状況としては「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
miRNAによるCRISPR/Cas9 systemの制御系においては、変異ガイド鎖(miR-302a応答配列が組み込んである)に対して、miR-302aのミミックを用いた時、Cas9活性がどのように変化するのかをHeLa細胞(miR-302aが発現していない細胞)で検証する。Cas9活性の変化(上昇もしくは減少)を確認した後、変異ガイド鎖の最適化を行なっていく。近年、ガイド鎖を改変し外在性のシグナル(タンパク質やアンチセンスオリゴ)によりCas9活性を制御することに成功した論文が報告されたので、最悪この戦略を参考に内在性のmiRNAに応答するガイド鎖を作製する。 エピゲノム制御系においては、CRISPR/Cas9 systemを用いた遺伝子制御の評価系(ここではCRISPRaの評価系)の確立を最優先して行う。当該研究室でもほぼ同じ条件で検討できる方法を採用していた論文「Alejandro Chavez et. al., Comparison of Cas9 activators in multiple species Nature methods. 13, 563-567 (2016)」を参考にする。またdCas9にVP64を融合させたコンストラクトを用いていたが、より活性化能力が高いとされているVPRを用いることで改善を図る。評価系の確立後、エピゲノム因子を用いて実際に制御可能かを検証する。エピゲノム制御として現在想定しているのは、DNAのメチル化と脱メチル化である。
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