研究課題/領域番号 |
16J10724
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
松崎 芽衣 岐阜大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 精子貯蔵管 / 貯精 / 精子侵入 / β-defensin / ウズラ / 精子 |
研究実績の概要 |
本研究では、ウズラ精子の誘引物質を同定し、精子が精子貯蔵管(sperm-storage tubules; SST) へ侵入するメカニズムを解き明かすことを目指している。平成28年度は、ウズラβ-defensin 遺伝子のクローニングを行い、リコンビナントペプチドを作製した後、精子の走化性が見られるか観察し運動解析を行うことを目標としていた。現時点では、β-defensisn 2, 6および11のクローニングを終え、大腸菌においてリコンビナントペプチドを発現させることに成功している。しかしながら、精製過程においてペプチドが不溶化し、精製が難航しているため、別の方法でペプチドを作成することを検討している。また、全てのβ-defensin遺伝子をクローニングするためにβ-defensin遺伝子クラスター領域のlong-PCRを行っている。予備的な実験において、ウズラβ-defensin遺伝子は多型に富んでいることが予想されている。 一方で、SSTへの精子侵入を評価する方法として、新たにin vitroアッセイ系を構築した。従来法では、蛍光染色した精子を人工授精し、屠殺後にSSTを含む粘膜上皮を採取し観察していたため、同個体の雌を用いて複数回の実験を行うことや、様々な条件下での精子侵入率を比較することが不可能であった。新たに構築したアッセイ系では、SSTを含む粘膜上皮とHoechst 33342染色した精子を共培養することにより、in vitroで精子侵入を観察することに成功した。in vitroアッセイを用いた実験により、粘膜上皮を60℃で熱処理すると精子がSSTへ侵入しなくなるが、50℃の熱処理群ではSSTへ精子が侵入することが明らかになった。このことは、60℃の熱処理により失活する精子誘引物質がSSTに存在することを示唆していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、(1)精子誘引能を有する可能性の高いβ-defensinに対する精子の走化性を確認した後、UVJにおけるβ-defensinの発現量や局在を調査し、生体内でβ-defensinが実際にSST への侵入に寄与しているかを検証する、(2)精子膜表面のタンパクに対する抗体ライブラリを用いてβ-defensinの受容体を同定する。β-defensinに精子誘引能が見られない場合は、SST への精子侵入を阻害する抗体をスクリーニングして精子誘引物質の受容体を同定し、これを手がかりに精子誘引物質を同定する。(3)走化性運動時のライブイメージングおよび細胞内カルシウム濃度等の測定を行い、精子の走化性と細胞内生理の関係を明らかにすることを予定していた。β-defensin2,6,および11のリコンビナントペプチドを発現させることに成功したが、精製が難航したため、精子の走化性試験を行う段階まで至らなかった。β-defensinには3箇所のS-S結合が存在することが知られており、フォールディングが正しく完了していない可能性が原因として考えられた。 しかしながら、SSTへの精子侵入in vitroアッセイ系を確立したことは、様々な条件下で精子侵入率を比較できる点において、非常に重要な成果であると考えられる。今後はこのin vitroアッセイ系を用いて研究を展開していくことが可能である。また、予備的な実験において、ウズラのβ-defensin遺伝子領域をlong-PCRにより増幅し、シーケンシングすることに成功している。ウズラβ-defensin遺伝子をクローニングすることは、今後の解析を行う上で必須であり、平成29年度の実験を進める基盤ができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ベクターおよび宿主の検討を行っている。また、ウズラβ-defensin遺伝子は多型に富んでいることが示唆されたため、複数個体のゲノムを用いてβ-defensin遺伝子クラスター領域のlong-PCRを行い、クローニングする予定である。 in vitroアッセイを用いた実験により、粘膜上皮を60℃で熱処理すると精子がSSTへ侵入しなくなるが、50℃の熱処理群ではSSTへ精子が侵入することが明らかになった。このことは、60℃の熱処理により失活する精子誘引物質がSSTに存在することを示唆していると考えられる。50℃程度の熱に耐性を持つことから、誘引物質はペプチド等の低分子と予想される。タンパク合成阻害剤等でUVJ粘膜を処理した際のSSTへの精子侵入率を、in vitroアッセイ系を用いて比較することを予定している。 β-defensinリコンビナントペプチドを用いた精子走化性の確認が難航しているため、SSTの抽出物から精子走化性因子を分離することも検討している。また、精子の細胞膜表面に局在しているタンパクに対するモノクローナル抗体ライブラリを作成し、in vitroアッセイ系を用いてSSTへの精子侵入を阻害する抗体をクローニングする準備を進めている。具体的には、以下に示すように進める予定である。ウズラ精子を採取し、キャビテーションにより精子膜分画を分離する。精子膜分画を抗原としてマウスに免疫した後、リンパ節からB細胞を採取しミエローマ細胞と融合させハイブリドーマを作成する。ハイブリドーマを培養し、in vitroアッセイにおいてSSTへの精子侵入を阻害する培養上清をスクリーニングする。クローニングした抗体を用いて抗原を分離、同定し、精子細胞膜に存在するSSTへの侵入に関与するタンパクを明らかにする。
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