研究課題/領域番号 |
16J10845
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中原 望 長岡技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | アーキア / 未培養微生物 / ゲノム解析 / 海底堆積物 |
研究実績の概要 |
本研究で対象としているアーキアは新しい門を代表する生物種であり、分離・培養を介してその生理生態学的な特徴を解明することで新たな微生物学的な知見の拡充が大きく期待できる微生物である。本年度は、以下の2点を基軸として研究を遂行した。 1) ショットガンゲノム解析アプローチによる全ゲノム配列の解読 2) 細胞構造の理解 本年度は、完全長ゲノム配列を得るために1)の研究について遂行した。まず、昨年度の研究で得られた未培養アーキアのドラフトゲノム配列をベースにし、さらにそのゲノム配列の信頼性を確保するため、ドラフトゲノム配列の深度(各リードの厚み)を補強した。この未培養アーキアは菌体収量が極めて低いアーキアである(最大細胞密度: 10^5 cells/ml)ため、ゲノム配列を解読するのに必要なゲノム量を確保するのに数ヶ月の培養を要した。時間はかかったものの期待通りにゲノム配列の精度を上げることができ、さらに、全ゲノム配列の取得にも至った。したがって、今年度は、当初の目的であった完全長ゲノムの決定を完遂することができた。次に、昨年度の成果である本アーキアが高度に集積された培養系を用いて2)の細胞構造についての観察を行った。新規な微生物を分離した際に重要なことの1つは、その微生物の形やどのような細胞構造を持っているのかを確認することである。そこで、走査型電子顕微鏡を用いた観察結果を行ったところ、本アーキアは球菌でその細胞サイズは、直径が300-500 nm程度と極めて小さく、その細胞は集塊体となり増殖していることが明らかとなった。一方で、透過型電子顕微鏡観察では、菌体量が少なかったことが影響したのか、明瞭な細胞内部の構造を観察することは困難であった。したがって、来年度に再度、前処理方法などを検討し、細胞内部の構造の理解を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大細胞密度 (10^5 cells/ml) に達するまでに数ヶ月も要する難培養性アーキアであるにも関わらず、その全ゲノム配列を決定し、さらにはこのアーキアが高度に集積された培養系を維持できている。さらに本年度は細胞構造の詳細な観察まで行うことができた。これらの成果は、これまで人為的に培養できないと考えられていた新門に属するアーキアを世界で初めて「培養」することに成功し、その詳細に迫った研究であり高く評価できる。一方で、本年度においても培養条件の検討を行ったが、その増殖を促進することはできなかった。この結果が意味することは、地球上に存在している大部分の未培養微生物は、我々の想像以上にゆっくりとした代謝を行っているため、これまで培養することができないと考えられていたが、それは常識外れな生き方をする微生物の存在を見過ごしていただけだと考えられる。したがって、本研究のように着実に培養を進めていけば未培養系統分類群も培養が可能であることを科学的に示すことが可能であった。以上の理由から、総合的に判断すると本研究は、おおねむ順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、今後の研究を加速するために培養条件の検討などを行なったが本アーキアが最大細胞密度に達するまで必要な培養時間を短縮することはできなかった。しかしながら、本年度、完全長ゲノム配列を決定できたことは大きな成果であり、部分的な代謝経路についても明らかにしつつある。一方で、本年度に明瞭な細胞内部の構造を観察できなかったことから、来年度は透過型電子顕微鏡の他にもクライオ電子顕微鏡による詳細な細胞内部構造の観察を検討している。なお、これまでに得られた成果は、論文としてまとめ投稿する準備を進めており、来年度も継続して本アーキアの菌体収量の増加を目指し、菌株保存機関へ委託することができるように培養条件の改善を行う。
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