本研究では、海底堆積物中に普遍的かつ優占的に生息することが知られている門レベルで未培養なアーキア群(Deep-Sea Archaeal group: DSAG)に属するアーキアの分離・培養に成功し、詳細な生理学的・遺伝子学的特徴を解明した。さらに、本DSAGアーキアの分離・培養を進めて行く過程において共存していた2種類の新目レベルで新規なChloroflexi門に属するバクテリアを分離し、それらの詳細な生理学的特徴を理解することができた。以下にその詳細について述べる。 本研究で対象とした系統分類学上高次レベルで未培養であった微生物たちは、極めて遅い増殖速度 (倍加時間は20-30日程度)であり、その最大到達菌体密度 (10^5 cells/ml程度)も極めて低かった 。この特徴から、これらの微生物は細胞分裂にエネルギーを使用するよりも、可能な限り一つの細胞を存続させることを優先したエネルギー節約型のライフスタイルをとると考えられた。これは、海底堆積物環境のような極限環境で生き残るための生存戦略と考えられる。加えて、これら微生物のゲノム情報を得ることにも成功し、そのゲノム情報から詳細な代謝プロセスの解明を行った。ゲノム情報を活用することで集積ならびに分離操作を効率よく進めることができた。さらに、培養に成功した微生物は記載・命名に必要となる基本的な生理学的特徴の調査だけでなく先端的な種々の顕微鏡観察や安定同位体ラベルを利用した培養実験等を行う事で、ゲノム解析だけでは理解することができない新しい代謝機能を発見するに至った。 以上、本研究により、これまで海底堆積物に優占しているにも関わらず、機能未知であった未培養微生物を培養することに成功し、「生きた微生物」を用いた実験を通じて、これらの微生物の代謝機能や物質循環における役割を解明した。
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