地震・噴火・洪水などの大規模自然現象及び気候変動の履歴復元やこれらの将来予測の高度化に向けて,堆積物が持つ記録の時間分解能を定量化する手法の開発及びその一般化を目標に,2014年に福井県水月湖で掘削された複数の堆積物コアサンプル(SG14)を用いて研究を行った.一連の研究では,複数のコアから構成されるSG14コアについてそれらを統合したモデルを作成するとともに,高度に年代決定がなされている2006年掘削のSG06コアとの厳密な対比を行った.さらに本研究ではMcLean et al. (2016)の火山灰を利用した水月湖とグリーランド氷床の対比に基づく最新の年代モデルの適用も行った.これらの対比及び年代モデルに基づき,時間分解能を考える上で重要な擾乱量の推定を堆積構造に基づき試みた.推定には掘削時に撮影した高解像度コア写真を用い,層厚5 mm以上のイベント層を除いた堆積物を対象に,色変化に基づくエッジ抽出法を用いた堆積構造の抽出を行った.この結果に対して1次元シミュレーションを組み合わせることで,擾乱量の推定を行った.推定された擾乱量には実スケールの層相観察からでは評価が難しかった連続的かつ長期的な変動が認められた.これらの変動のいくつかについては古気候イベントとの相関が認められた.さらに擾乱量復元の他地域への応用を目指して,堆積構造から復元された擾乱量と多くの地域で確認できる火山灰層の堆積構造との比較を行った.比較のためにコア写真の解析に加え,X線写真の撮影,1 mm毎の連続粒度分析及びその解析を行い,両者の間には相関が認められた.これらの結果は火山灰層などのイベント層を使用することで,堆積物中に保存された記録が受ける擾乱の影響,ひいては記録の時間分解能そのものを復元しうることを意味しており,今後さらなる検証は必要なものの,堆積記録の解釈の高度化に寄与するものと考えられる.
|