申請者の所属研究室ではSARS 3CLプロテアーゼの基質配列に基づくペプチドアルデヒド型阻害剤とプロテアーゼのX線複合体解析からS2サイトでの疎水性相互作用に着目したデカヒドロイソキノリン骨格を核とした二環性縮環構造を有する阻害剤の開発がすすめられていた。このタイプの阻害剤では想定していた疎水性相互作用は認められるものの、S3サイト以降での相互作用の欠落による活性低下が避けられないことが判明した。そこで申請者はS3サイト以降に相互作用が可能な置換基を付与した新規デカヒドロイソキノリン型阻害剤の設計と立体選択的合成を推進してきた。 今年度は、まず前年度で新たに合成したデカヒドロイソキノリン型阻害剤の単離条件の検討を行った。前年度と同様のワインレブアミドの還元により生成するアルデヒドを再現性良く単離することが困難であることが判明した。そこでアルデヒド前駆体としてチオアセタールで保護した化合物をNBS処理したところ、アルデヒド体へと効率よく変換され目的物をHPLCで容易に単離・精製できることを見出した。ついで、合成したワインレブアミド体、チオアセタール体、アルデヒド体および別途合成したマイケルアクセプター体の4種類の化合物をそれぞれSARS 3CLプロテアーゼの阻害試験に供した。その結果、新規相互作用部位を付与したアルデヒド化合物は親化合物の2.4倍の阻害活性を示し、新規相互作用部位が活性向上に寄与していることが示唆された。さらに、チオアセタール体がアルデヒド化合物よりも活性は低下するものの明らかな阻害活性を示すことを見出した。このことから、アルデヒド体よりも化学的に安定なチオアセタール官能基が新たなwarheadとして機能することを初めて明らかにすることにも成功した。本研究内容を第44回 反応と合成の進歩シンポジウムおよび日本薬学会第139年会で発表した。
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