研究課題/領域番号 |
16J10938
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
平木 貴宏 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 原子・分子物理 / レーザー分光 / パラ水素 |
研究実績の概要 |
SPAN (SPectroscopy with Atomic Neutrino) 計画は、原子・分子の脱励起過程のうちニュートリノ対と1 光子を放出する過程の光子エネルギースペクトルを詳細に調べることにより、ニュートリノの絶対質量などの未知のパラメータを包括的に決定することを目的としている。この計画を実現する上で、”マクロコヒーレント増幅機構”(量子干渉性を用いた反応レートの増幅効果)は、核心となる原理である。 本研究でこの増幅原理を多光子過程での観測を通して詳細に理解することを進めている。 これまでのパラ水素を用いた二光子放出過程増幅実験では同方向から入射する2色のレーザーによってパラ水素を励起していた。しかしながらニュートリノ対放出過程観測実験ではレーザーを対向に入射させて標的を励起させることがに必要であることが分かっている。本年度は対向型2光子放出過程の観測実験に必要な高強度中赤外レーザーおよびレーザー対向励起用の準備が完了し、申請書に記載されている実験を行った。実験ではレーザー周波数を二光子共鳴に相当する点のまわりでスキャンすることによって、二光子放出過程のシグナルスペクトルの取得に成功した。その後、シグナル光強度の入射レーザー偏光依存性や入射レーザー強度依存性、パラ水素ガス圧力依存性などの詳細なデータを取得した。また、電場とコヒーレンスの時空発展を考慮した数値シミュレーションによるデータとの比較を行い、これらの依存性が定性的によく一致していることを確認した。現在はこの解析をまとめた論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中赤外レーザー自体は前年度に試作機を製作したが、中赤外光の強度が弱いという問題があった。本年度は中赤外光発生に用いるNd:YAGレーザーでより高強度のものを用いることにより中赤外光の高強度化(約50倍程度)を行った。これにより、Signal to Noise 比が向上し、シグナルピークを観測することができた。 対向実験のセットアップを再現する数値シミュレーションを構築した。データとシミュレーションの比較からパラ水素ガスに生成したコヒーレンスの消失(デコヒーレンス)の主な原因がパラ水素気体分子の衝突による位相緩和であることを確認するなど、マクロコヒーレント増幅機構の理解を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
二光子放出過程を観測する際トリガーレーザーと呼ばれる二本の励起光源とは別のレーザーを同時入射している。中赤外レーザーをもう一台用いることでトリガーレーザーの周波数のみを変えることができるが、これはコヒーレント増幅条件の直接確認となる。本年度レーザーセットアップの構築が概ね終了し、次年度本格的に実験を行う。 また、標的をパラ水素固体にした場合のレーザー対向励起からの二光子放出観測実験を行う予定である。 パラ水素を用いた実験の他に、Xeガスを用いた高次QED(多光子)放出過程のレート増幅実験を進めている。本年度はXeガス対向励起に必要な波長596nm及び298nmのレーザー製作がほぼ完了したため、次年度は対向励起実験を進めていく予定である。
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