研究課題
骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms: MPN)は、後天的な機能獲得型変異(ドライバー変異)によって造血幹細胞が腫瘍化し、骨髄球系細胞の異常な増殖を引き起こす造血器腫瘍である。本研究は、家族内でMPNを多発する症例を足がかりに、家族性MPN患者と非発症者を対象にした全ゲノム解析と、患者由来の遺伝情報が保存されたiPS細胞と分化誘導技術を用いることで、MPN発症の分子基盤を明らかにすることを目的とした。昨年度までに樹立した健常者由来iPS細胞に対して、ドライバー変異であるJAK2V617F変異を導入するようなCRISPR/Cas9システムを利用し、遺伝子型を電気泳動とサンガーシーケンスによって確認したところ、JAK2V617F変異のみを導入することに成功した。さらに、JAK2V617Fがヘテロ型、ホモ型で導入されたiPS細胞を得ることに成功し、遺伝的バックグランドが均一なアイソジェニックなiPS細胞株を樹立できた。これらのJAK2V617F変異を導入したアイソジェニックなiPS細胞を対象に、昨年度までに構築した分化誘導系に供試したところ、変異アレル量に相関して赤芽球と巨核球が多く誘導されたことから、既報のマウスモデルと同様に、変異アレル量がMPNの病型に寄与することが考えられた。さらに、造血幹細胞レベルでJAK-STAT経路に関わるリン酸化タンパク質を定量したところ、JAK2V617F変異を有する細胞ではリン酸化が亢進していた。このことから、造血幹細胞レベルでJAK-STAT経路のリン酸化レベルが亢進していることで、赤芽球系、巨核球系細胞の分化に傾いているためにMPNを発症すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は当初の計画通り、MPN患者から樹立したiPS細胞を用いて、試験管内におけるMPN病態モデルの分化誘導系を構築し、赤芽球や巨核球を誘導するような試験管誘導系を構築できた。また、JAK2野生型を有する健常者由来iPS細胞へドライバー変異を導入でき、現在、JAK2野生型を有する家族性MPN由来iPS細胞に対して同様に、ドライバー変異を導入しているところである。さらにウェスタンブロットによって内因性のリン酸化タンパク質を定量する系も構築でき、MPN表現型の評価系を確立するに至っている。一方で、別のドライバー変異であるCALR変異を有するiPS細胞を樹立し、本研究で構築した分化誘導系に供試したところ、CALR変異を有するiPS細胞が巨核球への分化偏向性を示した。これらのデータをもとに論文にまとめ、血液学の専門誌であるBritish Journal of Haematologyに投稿し、受理されたことから、研究成果を着実にアウトプットしながら本研究を遂行できていると考える。
次年度は、CRISPR/Cas9によってドライバー変異が導入されたiPS細胞を用いて、非発症者由来iPS細胞と家族性MPN患者由来iPS細胞とで、どのように表現型が異なるかを比較する。具体的には、プレ因子を保有すると考えられる家族性MPN患者由来iPS細胞とプレ因子を持たない非発症者由来iPS細胞を対象に、昨年度までに構築した評価系を用いて、赤芽球、巨核球の誘導効率を比較することで、ドライバー変異とプレ因子がMPNの発症にどのように関わるのかを明らかにする。同時に、全ゲノム配列解析の結果得られた家族内発症の原因と考えられるプレ因子の候補を、ゲノム編集によりiPS細胞へ導入し、分化誘導系に供試することでプレ因子を同定する。
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British Journal of Haematology
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10.1111/bjh.15266