研究課題/領域番号 |
16J11097
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
金 太成 早稲田大学, 基幹理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ紡績糸 / 強度特性 / 黒鉛化処理 / 複合化 / 分子間力 |
研究実績の概要 |
本研究では,カーボンナノチューブ(CNT)紡績糸をポリマー基複合材料の次世代強化繊維として実用化するため,乾式紡績法で作製した無撚CNT糸を高強度化して,その強度発現機構を解明することを研究目的とする.本年度はCNT糸の高強度化を中心に研究を行った. CNT糸を構成する多層CNTの高純度化を目的として,紡績後の無撚CNT糸に不活性ガス下で黒鉛化熱処理を施した.黒鉛化処理の結果,多層CNT上に存在した不純物および欠陥構造は除去され,結晶性を表すG/D比は10倍以上向上した.また,CNT糸の引張強度は35%,ヤング率は22%増加し,それぞれ1.3GPa,90GPaとなった. 無撚CNT糸は高密度のものほど高強度となることが先行研究において実験的に確認されている.本研究では,セラミックスダイスを用いた物理的な高密度化処理に加えて,ポリマー溶液を用いてCNT糸をさらに高密度化した.複合化の結果,CNT間距離の減少やポリマーによるCNT間の荷重伝達効果により,CNT糸の機械的特性は向上する結果となった.特にポリビニルアルコール,ポリアクリル酸といったポリマーによる機械的特性の向上効果は高く,強度は最大2.4GPa,ヤング率は最大160GPaに達した.これらのポリマーには水酸基やカルボキシル基などの官能基が副鎖に含まれることから,ファンデルワールス力に加えて,水素結合がポリマーとCNT間の主要な相互作用力であることが示唆された. 以上の結果から,無撚CNT糸の機械的特性はCNT糸を構成する多層CNT間に作用するファンデルワールス力に依存し,水素結合などの分子間力を加えることで機械的特性が増大することが明らかとなった.次年度はCNT単体の高重度化とCNT糸の高密度化処理を組み合わせることで炭素繊維に匹敵する高強度CNT糸の創製を図ると共に,分子動力学解析によって実験結果の検証を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は無撚CNT糸の高強度化と高度発現機構の解明を研究目的としており,本年度はCNT糸の高強度化を中心に研究を行った.CNT単体およびCNT糸の異なるスケールでの高強度化処理の結果,CNT糸の静的引張強度,剛性を高めることに成功しており,無撚CNT糸を構成するCNT間に作用する分子間力がCNT糸の強度発現の主要因子であることを実験的に明らかにした.高強度化処理を行った無撚CNT糸の機械的特性は炭素繊維と比較して依然低い値を示しているが,本年度の実験結果に基づいてCNT間の相互作用力を高めることで構成CNT本来の機械的特性を活かし,無撚CNT糸の機械的特性を更に高めることが可能であると考えられる.次年度の研究内容である分子動力学解析にも本年度中に着手しており,無撚CNT糸の強度発現機構の解明に向けて実験研究および解析による検証共におおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
無撚CNT糸の更なる高強度化を目的として,本年度研究結果に基づきCNT間に作用する分子間力を増大させる.混酸やプラズマ処理によりCNT糸を構成する多層CNTにカルボキシル基を代表とした官能基を付与して,ポリマーによる荷重伝達効果を高める.ポリマーとの複合化と黒鉛化処理を組み合わせることで,強度3.0GPa以上のCNT糸を創製する.また,多層CNT単体の引張試験を行い,CNT単体の機械的特性がCNT糸の強度特性に及ぼす影響を評価する. 本年度実験結果から得られた無撚CNT糸の強度発現機構の検証を目的として分子動力学解析を行う.紡績後のCNT糸,黒鉛化CNT糸,様々な樹脂系で複合化したCNT糸の分子モデルを作成して引張破壊シミュレーションを行い,実験結果と合わせて無撚CNT糸の強度発現機構を解明する.具体的には①密度などCNT糸の物性や構造と引張強度の関係,②黒鉛化によるCNT間相互作用力およびCNT糸強度の変化,③複合化による高強度化の鍵となる樹脂系および官能基を明らかにする.
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