研究課題/領域番号 |
16J11221
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
出口 確 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 自然免疫 |
研究実績の概要 |
昨年度に取り組んだ研究目的1「ウイルスRNA-MDA5-ミトコンドリア上IPS-1シグナル伝達経路分子機構モデルの、検証と深化」では、細胞質ウイルス二本鎖RNAセンサータンパク質MDA5がミトコンドリア膜上に局在するIPS-1にシグナルを伝達するメカニズムを解明することを目的として実験を遂行し、「コンパクトな構造」をとるMDA5がIPS-1の凝集を誘導するという構造学的新知見を得た。この結果を受け、本年度は、ミトコンドリア外膜上におけるMDA5とIPS-1との相互作用を解析した。 蛍光タンパク質Venusに融合したIPS-1を恒常発現するHeLa細胞からミトコンドリアを単離し、野生型または恒常活性変異型MDA5を添加した後に、スライドグラス上に固定して共焦点蛍光顕微鏡で観察した。すると、野生型と変異型との間で、ミトコンドリア上の蛍光シグナルに顕著な差違はみられなかった。また、同様に単離したミトコンドリアに野生型または恒常活性変異型MDA5を添加し、遠心分離によってミトコンドリアを回収した後に、結合したMDA5量を抗MDA5抗体を用いたウエスタンブロッティング法により定量解析したところ、やはり野生型・変異型間で結合量に有意差は検出されなかった。この結果は、精製したIPS-1およびMDA5を用いた実験や、in vivoでの感染細胞を用いた先行研究の結果を考え合わせると、単離ミトコンドリア上では恒常活性変異型MDA5がIPS-1を活性化しないことを示す。本実験では、ミトコンドリアを単離することで、ミトコンドリアの何らかの生理的要素が失われ、IPS-1-MDA5間の相互作用に影響したものと考えられる。 また、生きた細胞の細胞内小器官および、細胞から単離した細胞小器官の、高速液中原子間力顕微鏡を用いた可視化解析技術を目下開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的Iにかかげた、シグナル伝達モデルの検証と深化に関しては、おおむね達成でき、現在発表準備中である。 ミトコンドリア上でのシグナル伝達の様態の観察・解析は、明確な結果を得るに至っていない。本実験では、ミトコンドリアを単離することで、ミトコンドリアの何らかの生理的要素が失われ、IPS-1-MDA5間の相互作用に影響したものと考えられる。 当初の予定では、今年度に細胞内のミトコンドリアの高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)により観察する方法を確立し、可視化解析を行う予定であったが、技術習得に予想以上の時間を費やしたことから、本年度内における確立には至らなかった。観察条件を検討する中で、生きた細胞内のミトコンドリアを細胞膜外から観察し、解析可能なデータを得るのが想像以上に困難であることも明らかになりつつあるため、単離したミトコンドリアを観察することも検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
単離ミトコンドリアとMDA5との相互作用に関して、ウイルス感染時にミトコンドリアの膜電位に変化があるとの報告もあることから、ミトコンドリアの膜電位が、IPS-1とMDA5の相互作用やシグナル伝達に関与していることが示唆される。in vitro観察時のミトコンドリアの膜電位の回復には、コハク酸を添加する方法が従来用いられてきた。これを、単離ミトコンドリアにMDA5を添加する上記の実験に利用して条件を改善することで、「恒常活性変異型MDA5が、ウイルス感染による経路活性化時と同様に、IPS-1の凝集を誘導すること」の生化学的な裏付けを得ることを目指す。 細胞からのミトコンドリア単離は、上記の実験での方法を利用するため、HS-AFMによる観察に適した、基板への吸着方法および緩衝液の決定の必要がある。次年度は、これらの課題を克服し、ミトコンドリア膜の液中観察や、シグナル伝達経路活性化時における、観察の方法を確立した上で、ミトコンドリア膜の動態や変形を解析することを目指している。
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