研究課題
本年度は、大学生およびうつ病患者を対象とした質問紙調査を継続的に実施した。まず、128名の大学生を対象に、認知的要因(非機能的態度:抑うつを引き起こすネガティブな考え方)と行動的要因(報酬知覚:快事象を経験する程度)が抑うつ気分や興味・喜びの喪失とどのような関係性を示すのかを検討した。その結果、報酬知覚が少ない大学生ほど、抑うつ気分や興味・喜びの喪失が強いこと、非機能的態度は報酬知覚が少ない場合にのみ抑うつ気分を強めることが明らかになった。次に、102名のうつ病患者を対象に、報酬知覚の少なさが抑うつ気分や興味・喜びの喪失を強めるという関係性に対して、目標に向かう活動がどのように影響しているのかを質問紙調査及び半構造化面接を用いて検討した。その結果、目標に向かう活動が報酬知覚を良好にし、興味・喜びの喪失を緩和していることが明らかとなった。2つの研究成果から、抑うつ気分と興味・喜びの喪失の維持には報酬知覚の少なさが影響していること、そして報酬知覚には目標に向かう活動が影響していることが示された。したがって、認知行動療法の進展過程を明らかにする上で、まず、行動的技法や行動的要因に着目し、抑うつ症状の改善過程を明らかにする必要があると考えられた。上述の研究成果に基づき,うつ病の認知行動療法の治療構成要素の中でも,特に行動的技法に特化した方法である行動活性化による抑うつ症状に対する作用機序を明らかにするために,まず,集団行動活性化プログラムを整備した。医師,心理士,精神保健福祉士,研究員のチームを構成し,4セッションで実施できる集団行動活性化プログラムを開発した。現在までに,北海道内の3つの医療機関の協力のもと,うつ病患者25名がプログラムを完遂し、プログラム前後での質問紙の測定が終了している。
2: おおむね順調に進展している
本年度内に、医療機関に通院中のうつ病に罹患する協力者に対する全調査データの取得が終了した。また、半構造化面接と医師の診断によってうつ病の罹患の有無を判断したために、研究を遂行する上で適切な協力者に対して調査を実施することが出来た。また、大学生を対象にした研究データは論文に受理されており、うつ病患者を対象にした研究データは国内外の学会で発表され、次年度の論文投稿への準備も最終調整の段階に入っている。また、次年度に予定していた行動活性化プログラムの実施についても、予定通り今年度中に研究マニュアルが整備され、すでに連携する医療機関でプログラムが実施されている。したがって、研究は概ね順調に進展していると判断される。
うつ病患者を対象にした調査研究の成果は、すでに英語論文としての投稿の準備が終わり、現在投稿中の段階である。行動活性化プログラムの実施については、研究マニュアルが整備され、すでに連携する医療機関でプログラムが実施されていることから、継続的に実施する。認知的技法に関する研究についても、連携する医療機関との打ち合わせ後、研究マニュアルを整備し、随時実施予定である。
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北海道医療大学心理科学部研究紀要
巻: 12 ページ: 1-10
精神科診断学
巻: 印刷中 ページ: 印刷中