研究課題/領域番号 |
16J11326
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
松田 拓也 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | 励起子 / ポラリトン / プラズモン / 超高速発光 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で「光場を介した励起状態間強結合」が異なる励起状態のコヒーレントな重ね合わせを産み出し,その超高速1光子上方変換発光が生じるという発光機構としても波長変換機構としても新奇現象が生じることを明らかにした.この成果は学術雑誌において掲載された. 平成28年度の研究目的としては,まずその超高速1光子上方変換発光を実験実証することであった.一方で,そもそも理論的に予言している100 fs級の超高速発光の存在を実験実証する,という優先度の高い課題が浮上した.したがって,まずその課題解決を優先的に進めた.それと並行し当初の研究目的に向かって研究を進めた. 本年度はCuCl半導体薄膜中の励起子と光場の強い非局所相関が誘起する,100 fs級超高速発光の存在を実験的に明らかにすることに力点を置いた.具体的には(1)時間分解能が10 ps程度のストリークカメラによる時間分解発光測定や(2)励起子発光強度の温度依存性の観測を試みた.(1)に関して測定結果から時間分解能を切る発光緩和を観測することに成功した.これはCuClの励起子発光寿命として過去に実験で報告されているものよりも速い発光であり,得られた発光寿命は装置の時間分解能を切っているため,それを下回る超高速発光緩和を示している.(2)に関して励起子発光スペクトルの温度変化を見てみると,輻射緩和率の速いモードが生き残り,それに応じて温度上昇に伴う発光強度減衰も抑えられる傾向を現在観測している.また上記実験研究と並行して研究計画通り光場を介した励起状態間強結合が実現する系として,異なる薄膜に広がった励起状態を表面プラズモンポラリトンで媒介する系の可能性を理論的に模索した.結果として構造等をうまく設計することで光エネルギー捕集と発光の双方が高効率化することが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の成果は主に次の三点である. (1)CuCl半導体薄膜中の励起子と光場の強い非局所相関が誘起する超高速発光緩和を実験的に捉えることに成功し,理論予測の一部を検証した.この成果で「第2回日本物理学会領域5学生ポスター優秀賞」を受賞している. (2)上記励起子発光スペクトルの温度変化から,高温域での輻射緩和率の速いモードの生き残りと温度上昇に伴う発光強度減衰の強い抑制効果を確認し,100 fs級の超高速発光の存在が確からしくなった. (3)また上記実験研究と並行し光場を介した励起状態間強結合が実現する系として,異なる薄膜に広がった励起状態を表面プラズモンポラリトンで媒介する系を想定し,特定条件において光エネルギー捕集と発光の双方が大幅に高効率化することを理論的に明らかにした. (1)(2)に加え,(3)においても精力的に取り組んだことから平成28年度は期待以上の研究の進展があった言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として,大きく分けて以下の3点が挙げられる. (1)CuClやZnOを用いた,理論的に予測した上方変換発光の観測 (2)プラズモン効果が誘起する上記上方変換発光における高効率化の探索 (3)アップコンバージョン法を用いた超高速発光緩和の観測
|