本研究は光と物質の空間相関が誘起する新奇発光機構を理論・実験の両面から明らかにすることを目的としている。前年度ではストリークカメラによる時間分解発光測定から、時間分解能10 psを切る超高速発光が生じることを明らかにした。CuClの励起子発光寿命として過去に実験で報告されているものよりも速い発光であるため、得られた発光寿命は光と物質の空間相関が誘起する超高速発光現象であることを強く示唆している。 そこで今年度は、CuCl薄膜において100 fsを切る励起子発光モードの存在を発光スペクトルの温度依存性の測定と理論計算との対応から評価した。結果として、高温領域での輻射緩和レートの速いモードの生き残りと室温で超高速輻射モードのみが生き残ることを理論計算との対応から確認した。また発光の膜厚・温度依存性を測定した。10 fs秒台の輻射緩和の速いモードが存在する膜厚では室温でも励起子発光が生き残ることがわかった。この成果で「第78応用物理学会秋季学術講演会Poster Award」、「第28回光物性研究会奨励賞」を受賞した。 次に室温近辺において実時間領域の励起子輻射緩和特性を評価するために、3パルス縮退4光波混合法を用いて測定を試みた。この分光法はポピュレーション緩和を観測する手法であるため、室温位相緩和が緩和特性に現れないことが知られている。この実験結果から、室温領域でも10 fs台の超高速輻射モードが実時間領域においても観測された。さらに励起子効果が顕著なZnOでも超高速輻射緩和が生じるか検討し、原理の多様性の追求を行った。低温における3パルス縮退4光波混合法によって100 fs秒級の輻射緩和が生じていることが明らかとなり、またこの実験結果は理論計算と良い一致を示した。これらの成果は現在、論文として投稿準備中である。以上のように、29年度は研究実施計画に基づいて順調に研究を進めることができた。
|