研究課題/領域番号 |
16J11334
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
野上 暁生 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 架橋ヘリカルペプチド / アルファへリックス / クロスリンク剤 / 酵素耐性 / D-アミノ酸 / タンパク間相互作用 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
細胞のアポトーシスを誘導する架橋ヘリカルペプチド 2i の機能を高めるため、以下の異なる二つのアプローチによってペプチドの酵素耐性を向上させ、細胞内安定性のさらなる向上を目指した。 架橋ペプチドのエキソプロテアーゼ耐性を向上させるために、ペプチド末端へ非天然部位として D-アミノ酸を導入することにした。本研究では、最も単純な D-アミノ酸である D-Ala を C 末端に導入したペプチドを合成した。D-Ala を 1 残基もしくは 3 残基導入したペプチドは 2i と同程度の強さで標的タンパクに結合した。次に、カルボキシペプチダーゼY に対する耐性を評価したところ、D-Ala 導入ペプチドは 2i の 10 倍程度高い耐性を示した。ペプチドを添加した培地で細胞を 48 時間培養した結果、2i はほとんどドットがみられなかったのに対し、D-Ala 導入ペプチドでは多くのドットがみられた。すなわち、D-アミノ酸を導入したペプチドは細胞内で長時間安定に存在することが分かった。さらに、D-Ala 導入ペプチドは、2i よりも高いアポトーシス誘導能を示し、D-Ala の導入数が多いほどその効率は高いことが分かった。 エンドプロテアーゼ耐性のさらなる向上を目指し、三点架橋ペプチドを設計した。三点で架橋することにより、ペプチド表面がより被覆されるため、さらに酵素耐性が向上すると考えた。クロスリンク剤であるイソフタル酸誘導体の5 位とペプチド側鎖間を、スペーサーを介して連結することで三点架橋ペプチドとした。この三点架橋ペプチドと Bcl-XL との相互作用を評価した結果、三点架橋ペプチドは 2i に匹敵する強さで相互作用することが分かった。また、トリプシン耐性を評価したところ、半減期が非架橋のペプチドと比較して 26 倍、2i と比較して 2.6 倍増加することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペプチドの生理活性を底上げするという当初の目的に沿って、2 つの異なるアプローチで酵素耐性を向上させる研究を行い、どちらの系においてもしっかりと酵素耐性を向上させることに成功した。特に、D-アミノ酸を導入したペプチドの系においては、酵素耐性の向上がペプチドの細胞内安定性およびアポトーシス誘導能の向上へと反映されることが分かった。これまでに、ペプチドの酵素耐性向上をエキソペプチダーゼ耐性のみに焦点を当てた研究はあまり例がなく、D-アミノ酸を数残基導入するのみで簡便にエキソペプチダーゼ耐性および細胞内安定性を向上させることが可能な本手法は、新規性および汎用性の両面において秀でた手法であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
D-アミノ酸の導入数とアポトーシス誘導能の相関関係を詳細に調査し、最も効果が高くなる導入数を求める。また、アルギニンなど他の種類の D-アミノ酸も試し、エキソペプチダーゼ耐性と細胞膜透過性両方向上を目指す。また、三点架橋ペプチドの細胞内挙動を解析する。三点架橋により細胞膜透過性が低下するなどの問題が現れた場合に、リンカー部分の脂溶性を調節することで、問題解決を試みる。これらの研究を平行して行い、最終的にはペプチドのエキソペプチダーゼおよびエンドペプチダーゼ両方の耐性と細胞膜透過性を底上げする汎用性の高い方法論を確立する。
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