研究課題
本研究では、二次元層状半導体の一種である二硫化モリブデン(MoS2)のディスプレイ応用を目的として、有機金属気相成長法(MOCVD)による高品質MoS2薄膜低温作製手法の確立について研究を行っている。今年度は、前述の目標達成に必要な高い生産性を有する有機金属(MO)原料の選定、及び温度勾配Hot-wall型CVD装置を用いたモリブデン単膜作製、硫化による反応メカニズム解明を達成目標として掲げた。本研究では数ある候補化合物の中から、モリブデン原料としてジイソプロピルジアザジエンモリブデントリカルボニル[i-Pr2DADMo(CO)3]、硫黄原料としてジターシャリーブチルジスルフィド[(t-C4H9)2S2]をそれぞれ選定した。これらのMO原料は毒性が低く発火性のない安全な原料である。また既存のMoS2用CVD原料と比較して高い蒸気圧を有しており、窒素バブリングにより低温かつ安定的に原料供給が可能である。これらのMO原料の分解温度について多条件同時成膜Hot-wall型CVD装置を用いた成膜、硫化実験を行い、XPSにより評価した。その結果、両MO原料は300°C以下の低温で適切に分解することが明らかになった。またXPSとDFTによる評価から、i-Pr2DADMo(CO)3は中心モリブデン原子が0価で存在しこれが低温分解と不純物混入抑制に効果的に作用することが明らかになり、(t-C4H9)2S2は水素雰囲気中で分解反応が促進され、更なる低温分解が可能であることが解明された。このように、新規MO原料の分解温度と物性について、実験的・計算的評価手法により明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績の概要で述べた通り、今年度は、高い生産性を有する有機金属(MO)原料の選定、及び温度勾配Hot-wall型CVD装置を用いたモリブデン単膜作製、硫化による反応メカニズム解明を達成目標として掲げた。その結果、モリブデン原料としてジイソプロピルジアザジエンモリブデントリカルボニル[i-Pr2DADMo(CO)3]、硫黄原料としてジターシャリーブチルジスルフィド[(t-C4H9)2S2]をそれぞれ選定し、これら新規MO原料の分解温度と物性について、実験的・計算的評価手法により明らかにした。本研究では更に、両MO原料を用いたCold-wall CVD成膜実験についても実施した。その結果、250°Cもの低温でウェハスケールSiO2基板上にMoS2原子層極薄膜を作製することに成功した。これは、本研究の目的であるMO原料の使用による低温成膜を実証する結果であり、またMoS2ディスプレイの実現可能性を飛躍的に向上させたと自負する。
今後の研究の推進方策としては、MoS2のCold-wall CVD成膜条件最適化を念頭に行う。MoS2は極薄膜領域での応用が期待される材料であるため、その作製プロセスには原子層レベルでの膜厚制御が求められる。その際に有用なのが、有限体積法(FVM)によるCVD成膜シミュレーションである。FVMは熱流体解析の分野で用いられる計算手法であり、反応室内の原料ガス吹き付け分布や膜厚分布が計算可能である。本研究ではFVMを用いた、大面積膜厚均一性に優れたCold-wall CVD装置の設計、および成膜条件の最適化を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
MRS Advances
巻: - ページ: -
10.1557/adv.2017.125
Applied Physics Express
巻: 10 ページ: 0412021-0412024
10.7567/APEX.10.041202
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 56 ページ: 0513011-0513015
10.7567/JJAP.56.051301
ECS Journal of Solid State Science and Technology
巻: 5 ページ: Q3012-Q3015
10.1149/2.0031611jss
10.1557/adv.2016.666