研究課題/領域番号 |
16J11404
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
CHENG CHENG 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 光化学系II / チャネルロドプシン |
研究実績の概要 |
本年度では、以下の二テーマについて研究を行った。 1.光化学系II(Photosystem II, 略称PSII)における構造とKok cycleの反応メカニズム 植物による太陽エネルギーを利用し水分解酸素反応を行う中心はPSIIである。酸化還元中心が存在するため、高解像度X線結晶構造の測定には還元され容易く、正確的な構造を得るのは難しい。S1状態を含め、他のS状態構造や反応中心のプロトン化状態等、不明なところが多く残されているため、今年度は一番基本的なS1状態における可能なプロトン化状態のモデルを構築し、我々の研究室が開発したQM/MM reweighting free energy SCF法(略称RWFE法)で構造最適化計算を行った。具体的に、a.PSIIの結晶構造から出発し、計算用パラメータの決定。b.可能なモデルを構築し、RWFE法での構造最適化をした。 2.チャネルロドプシン(Channelrhodopsin, 略称ChR)の伝導モデル構築とイオンチャネルのメカニズム解明 脳内神経伝導における重要な役割を果たすChRの結晶構造は2012年解明された。しかし、実験にでチャネルが閉じた状態しか取れず、光照射によるレチナール異性化が制御するイオン通路のメカニズムは未だ不明である。伝導状態をトラップするのは実験的に困難であるので、シミュレーションで伝導状態を解明するために、ChRをモデリングし、MDとRWFE計算を行った。具体的に、a.Photo cycleにおける重要な中間状態の定義、モデリング及びRWFE構造最適化。b.early P2状態から、推測したメカニズムに従い、人為的にレチナールの構造を調整しながら、開状態を探索していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PSIIについて、RWFE法はタンパク質の揺らぎ効果を考慮する方法である。そのため、研究対象であるMnクラスター以外のタンパク質や、糖脂質膜等の動きもある程度の精度を持つサンプリングを取る必要がある。PSIIは非常に複雑な物質であり、Mnクラスター以外にも約20種補因子が存在し、更に、PSIIが位置する糖脂質膜はLMGであり、既存の力場パラメータがない。そこで、QM計算で補因子と膜のパラメータを決定し、計算用パラメータファイルを作成した。特に不安定になりがちな膜に対して、1μsのMDを行い、安定性テストにも成功した。PSIIの系が巨大である為、計算速度が遅いが、現在可能なモデルに関して、基本的な構造最適化が終わり、S1状態について一番可能な状態を提唱した。 ChRについて、暗状態構造から出発し、異性化直後(P1)、脱プロトン化直後(early P2)を定義し、モデリングした。更に、最適化構造に対して、九州大学吉田グループによる3D-RISM計算を行い、3D-RISMの結果を踏まえ、 チャネル内部の水素結合パターンもMD構造から解析した。Early P2状態では、水分子がチャネルの内部に侵入し、レチナール付近の主鎖と相互作用することも判明でき、early P2は開状態の前駆体であることを強く示唆した。以上の結果はHeberleらによる実験結果とよく一致した。 従って、現在は概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
一年目の結果を踏まえて、二年目は以下の研究を行う予定である。
PSIIについて、RWFE法を利用し、得られたS1状態に基づき、反応サイクルのS0、S2、S3構造のモデリングを行う。その結果をS1の構造と比較し、タンパク質の揺らぎや内部水等が反応エネルギーへの影響を議論する。時間に余裕があればS2に存在する二状態間の自由エネルギー差を計算し、合理的なモデルを提唱する。タンパク質が巨大であり、また電子状態が複雑であるため、緩和時間が長いと見込み、時間が不足であれば3年目に移る。
一年目に解明したチャネルの光反応サイクルのP2状態までの構造を使い、チャネルのプロトン化状態を変化させることにより、イオン透過状態のモデルを探索し、光感受性イオン透過のメカニズムを明らかにする。また、その結果に基づき、可能なイオン透過のボトルネックを探索する。上記の結論を用い、イオン透過率、吸収波長等を調節できる変異体を設計し、チャネルのイオン透過メカニズムを明らかにする。
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