π共役ポリマーであるポリチオフェンは、ポリマー鎖のパッキングや配向がその光電子物性に大きく影響するため、集合状態を制御することはポリチオフェンが持つ機能を引き出す上で非常に重要である。中でも、無置換ポリチオフェンは高いπ平面性を有しており、集合状態を変えることで、蛍光や伝導性などの興味深い物性が発現することが期待される。しかし無置換ポリチオフェンは不溶不融、つまりプロセス性がないため、このような集積制御は不可能であった。一方、有機配位子と金属イオンとの自己集合反応により均一なナノ細孔をもつ多孔性金属錯体(PCP)が近年注目を集めている。PCPはそのデザインされたナノ空間を高分子合成の場として用いることが可能である。また、PCPは配位結合により形成されているため、温和な条件で骨格を取り除くことができる。 本研究では、PCPの一次元細孔内で無置換ポリチオフェンを合成し、その後、PCPを除去することで、元のPCP粒子のモルフォロジーを反映することで、ロッド形状の無置換ポリチオフェン粒子の合成に成功した。さらにTEMを用いたポリチオフェン粒子の電子線回折測定を行った結果、ロッド粒子の長軸方向に(002)、短軸方向に(xy0)に対応する回折点が観察され、ホスト錯体の除去後もポリマー鎖の配向が保持されていることが分かった。次に、ポリチオフェンの伝導特性を調べるために、ヨウ素によるドープ処理を施した後、ポリチオフェンの交流インピーダンス測定を行った。測定の結果、PCPから単離したポリチオフェンは溶液重合によって合成したものに比べて、3桁程度伝導度が高いことが分かった。両者の結晶構造に違いはないことから、伝導度の違いは、ポリマー鎖の配向が大きく寄与していると考えられる。
|